第28話 フラミンゴ獣人

辻馬車からおりてきたゴットン親子は、酒場の集まる繁華街へと歩いてゆく。


「一体どこへいくのかしら」


長い耳を不安げにゆらす。


「そうだ。忘れるところだった。

可愛いウサギさんに、髪飾りをつけるのを」


王子は懐から夜空のようにキラキラ光る小さな飾りを取り出すと、右耳のパチリと留めた。


「これはな。録音機になっている」


レオン王子がじーと見つめる。


「そういうことなのね。

落とさないように、気をつけるわ」


「頼む。それと今夜のオレ達の設定は、結婚をひかえた獣人カップルということにしよう。 

名前はそうだな。

オレがレオで、アイリスはリスいいか」


「いいわ。私はリスね」


コクリとうなずく。


「それとお互いこの格好はまずい。

もっと豪華にしなくては」


王子が呪文のような言葉をとなえて、

ウインクをする。


とたんに二人の姿が一変した。


私は、絹のように光る青いドレスに、

白いコートをはおり、首や指に宝石をつけた貴婦人に。


王子は、仕立ての良いスーツに、足首まであるコート、手首にはダイヤのブレスという富豪の紳士のようである。


「これでいい。さあ。いくぞ」


王子がたくましい腕で、私の肩に手をまわし咆哮した。


日頃は第一王子の特命をうけて、秘密警察として動き回っているレオン王子である。


こういう尾行はおてのものだろう。


「リス。今夜は特に美しいぞ」


レオン王子が、酔ったふりをして右頬にキスをおとす。


もちろん演技だ。


わかっているのに胸がキュンとする。


キスをされた部分が、燃えるように暑い。


「ルークの報告とおりだ。

ゴットン親子は、マダムセーラの娼舘へはいっていくぞ」


「娼舘ですって。

そこにゴットンとお義父様の愛人が、いるってことなの。

おぞましいわ」


「まあ、そういうな。

男ってそういうもんだ」


「へー。そうなんですか」


眉をひそめて王子の顔を見上げた。


「こら。その目はなんだ。

オレはリス一筋だぞ。

誤解するな」


王子が目を泳がせて動揺している。


『リス一筋』っていうのも、今夜のノリだわよね。


けど、くすぐったい気分だ。


うつむいて微笑んだ時、王子が足をとめる。


そこは、妖しい光に包まれているマダムセーラの娼舘の玄関前だった。


「アイリス。オレの後ろに隠れているんだ」


そう言ってから、王子は頑丈そうな扉を叩く。


「あら。とびきりいい男ね。

どう。今夜は私がお相手をするわよ」


扉の中から、厚化粧のフラミンゴ獣人が顔をだす。


「残念ながら、今夜はそっちに用はない。

賭場にやってきたんだ」


レオン王子の一言で、フラミンゴ獣人はサッと顔をかえる。


「賭場だって。

ここで賭博をやってるって、誰に聞いたんだい。

あそこには、ちゃんとした紹介者がいないと入れないんだよ。

あんた、ひょっとして警察じゃないだろうね」


「こんないい男の警察なんているかよ」


レオン王子のふざけた声がした。


「まあね。じゃあ、信じてやるよ。

廊下のつきあたりの部屋が、お目当ての場所さ。

残念ながら、今夜はマダムはいない。

ゾウ獣人様の館に呼ばれてるのさ」


あんな冗談一つで、フラミンゴ獣人が簡単に中へ招き入れてくれたのが、わからない。


「さあ。リスもこい」


王子が振り返って手招きをする。


「いったいどうなってるのかしら」


不思議に思って、入り際にフラミンゴ獣人の顔に視線をはしらす。


「なーんだ。魔法を使ったのね」


フラミンゴ獣人の青い目は焦点を失い、フラフラと回っていたのだ。


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