第27話 獣人マスク
サントスは、我が国に移住してきた獣人によってなされた街だ。
王都の北側にある市場とは反対の、南側にある。
街の中心には、精悍なライオンの顔をした初代獣人国王の彫刻が、そびえていたはずだ。
「夜のサントスは危ないから、アーサもついていくわ」
部屋の時計が八時半をさした時、アーサがワンピースの袖をひっはぱる。
「レオン王子と一緒だから大丈夫よ」
「なーるほど。二人っきりの夜のデートってわけかあ」
「バカね。そんなんじゃないわ」
アーサのいつもの冗談なのに、一気に頬が赤くなった。
このところ『レオン』という名前に過剰反応気味なのだ。
「あらら。そんなにムキになるなんて、図星だったりして」
「もう、こっちは忙しいの。
だから、からかわないで」
唇をとがらせる。
「はいはい。わかりました。
ご主人様は超純情だから、からかうのはやめるわ」
「こんな時だけご主人様なのね。
いつもは呼び捨てにしてるくせに」
「へへへ」
アーサは小首を傾げて笑うと、ベッドにもぐりこんだ。
「じゃあ。お留守番をまかせたわよ」
「了解。アイリスのフリをして、ここで寝ていればいいのよね」
「そうよ。万が一、誰かがやってきた時の為にね。
あら。もうこんな時間。
モタモタしてると遅れてしまうわ。
では、いってきます」
紺色の簡素なワンピースの上から、姿の消せるマントをはおり扉をあける。
この時間の邸は、ひっそりと静まりかえっていた。
透明人間になった私は、急ぎ足で門を抜けるとサントスへといそぐ。
夜目にも壮麗な邸が立ち並ぶ通りを抜けると、まばらに船が停泊している港にでる。
「たしかサントスは、この辺りだったわよね」
周囲には、船乗り相手の小さな店が数軒あった。
あたりをキョロキョロしていると、Mと一文字だけの看板がかかった店を見つける。
「遅れてごめんなさい」
マントを脱ぎながら、店先でたたずむ長身の男に声をかけた。
マントは、ひとりでに小さくなって、ワンピースのポケットにおさまる。
「いや。オレが早過ぎたんだ。
まだ九時五分前だぞ」
「こんな時間に王宮を抜け出してきて、大丈夫なんですか」
「ああ。オレは不良王子だからな」
レオン王子は、明るい声で笑う。
「それにこれは正真正銘の仕事だしな」
さっきまで無邪気な笑顔の王子が、鋭く瞳を光らせる。
「ただのゴットンの浮気調査じゃないの」
「ああ。手前にルークに調べさせたんだが、どうやら聖職者のウミがでそうだ」
「あら、ぶっそうな話なのね。
ゴットンたら、何をやらかしているのかしら」
とてつもなく不安になって、思わず肩をブルッとふるわす。
「アイリスはなにも心配するな。
さあ。
手前に店で買った獣人マスクをつけてくれ」
王子から、ウサギの顔のマスクを手渡された。
「今から獣人賭博へいく。
あの親子に見破られないように、変装が必要なんだ」
「獣人賭博って。ゴットンはそんなところにいるの」
「たぶんな」
「王子様。これは魔道具の変装マスクよね。
犯罪に使われたらいけないから、購入するには、身分証の提示が必要なはずよ」
それもかなり高い身分が必要なはずだ。
伯爵ごときでは、とうてい手にすることはできない。
「そうだ。王族でよかったと初めて思ったぞ。ハハハ」
「相当高価だったはずよ。
なのに、私の分まで悪いわね」
「変な気をつかうな。つべこべ言わずにはやくつけろ」
「はい」
おぞおずとマスクを顔に近つける。
するとマスクは、まるで皮膚のようにピタリとはりついた。
「なかなか、似合ってるぞ。
すっかりウサギ獣人じゃないか」
「そういう王子様も、ライオン獣人まんまですよ」
その姿は、まるで獣人の王のように気高い。
思わず見とれていると、大きな手で路地裏に引きずりこまれる。
「隠れろ。ゴットン親子がやってきたぞ」
建物の脇から顔をだして、王子は外の様子をうかがう。
「もう少ししたら、オレ達も出発するぞ」
身体をピタリと密着させられて、心臓が破裂しそうになっていると、王子が低い声で耳元でささやいたのだ。
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