第24話 冬至の火

冬至の夜、村は一年で最も大きな火を焚いた。

積み上げられた薪は山のように高く、火が放たれると轟音を立てて燃え上がった。

炎は夜空を貫き、降りしきる雪さえ赤く染めた。

その光景は畏怖を呼び覚ましながらも、人々の顔を温かく照らした。


村人たちは火を囲み、輪になって座った。

沈黙が広がるかと思えば、低い歌が響き渡った。

その歌は意味を伝えるよりも、炎の揺らぎをなぞるような声だった。

火の爆ぜる音と混じり合い、夜は一つの大きな呼吸に変わっていった。


少女は私の隣に座り、両手を炎にかざしていた。

赤い光が彼女の頬を染め、瞳に映る火は生き物のように揺れていた。

彼女は何かを呟いた。

聞き取れないその言葉が、火の中で燃やされ、煙となって空へ昇っていくように思えた。


私は喉を震わせようとしたが、やはり声は出なかった。

その代わりに、胸の奥で一つの響きが生まれた。

――共に在る、という響き。

それは声ではなかったが、火に照らされる彼女に確かに伝わっていく気がした。


村の長老が立ち上がり、大きな薪をさらに火にくべた。

炎は轟き、雪を跳ね返すほどに明るくなった。

その瞬間、私はふと遠い記憶を思い出した。

暗い教室で、ろうそくの火を囲んだ日。

蝋の匂い、友の笑い声。

けれどその記憶はすぐに雪に覆われ、再び白に溶けていった。


残ったのはただ、今ここにある炎と、少女の存在だった。


夜が更けるにつれ、村人たちは順番に炎へ枝を投げ入れていった。

それは願いを託す仕草であり、祈りの一部でもあった。

少女も小枝を手にし、私に差し出した。

私はそれを受け取り、炎へ投げ入れた。

枝はすぐに火に飲まれ、ぱちんと音を立てて燃えた。


その瞬間、胸の奥で確かに灯が点った気がした。

声を持たずとも、願いは火に託すことができる。

失われるものはあっても、燃え上がる炎は新しい響きを生む。


夜明けが近づき、炎は徐々に小さくなっていった。

残るのは灰と煙、そして心に残された温もりだけだった。

私はその温もりを抱きしめながら、静かに目を閉じた。

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