下
私は⋯⋯。
どうしたかったんだろう。
『知らねぇよ』
私は、どうなりたかったんだろう。
『知らねぇよ』
嘘。
私のことは。
私の気持ちは。
私よりも。
あなたの方が分かってる。
『そんなワケねぇだろ』
あなたはいつも私が望むことをしてくれる。
私の。
私の1番の理解者。
私のことを誰よりも理解してくれてる。
『そんなワケねぇだろ』
だったら。
なぜ、あなたは私の望むことをしてくれるの?
なぜ。
なぜ、あなたは。
私の気持ちを理解してくれるの?
『⋯⋯⋯⋯』
なぜ?
私が自分の気持ちを話したことなんて一度もなかったのに。
どうして私の気持ちがわかるの?
どうして私を理解してくれるの?
私は。
なにも。
私はなにも。
私はなにも出来ないのに。
『そんなことないだろ』
そんなことあるよ。
だって。
今だって。
私は理解されない。
私の気持ちを理解してくれない。
私は。
嫌なのに。
『そんなことないだろ』
おかしいよ。
それが出来てれば。
こんなことになんてなってない。
私がなにも出来ないから。
だから。
『おまえになら出来る』
出来ない。
『おまえはもう出来た』
出来てない。
『あの日』
⋯⋯あの日?
『おまえは確かに叫んだ』
いつ?
『だから変わったんだ』
いつ?
『おまえは自分で踏み出して叫んだ』
いつ?
『だからおまえの隣に俺が居る』
いつ?
『大丈夫だ。おまえになら出来る』
降りしきる雨の中で、無気力に項垂れる私。
もう全てが嫌だった。
何もかも投げ出して、この雨粒の様に地面に染み込んでそのまま消えてしまいたかった。
『なにやってんの?』
声。
私を見下ろす瞳はまるで私に興味が無いようで酷く冷たい印象を受けた。
でも。
それが酷く安心した。
この人は私に興味が無い。
まるで道端の石ころを見ているようで。
私をただの物体として認識していた。
私になにも期待していないし、私になにも求めていない。
だから。
この人に対して私は何もしなくていい⋯⋯ーーそう思った。
私は何もしなくていい。
ただ私で居ていい、と。
事務的でありきたりな言葉を並べられる。
心にもない言葉をただ淡々と並べられるだけ。
それに私はいつものように返答が出来ない。
愛想笑いを浮かべて、相手の望む返答を返せない。
いや⋯⋯。
彼の望む返答がなにひとつ想像できなかった。
どうすればいいか分からなかった。
『そうか。それじゃあな』
彼は私に背を向けて歩き出した。
望まれない私。
彼は私になにも望まない。
そんな彼だったからーー。
「待ってッッッッッ!!!!!!!!!」
ーー私は彼を求めた⋯⋯。
「はぁ⋯⋯!はぁ⋯⋯!」
どこをどう走ったかは覚えてない。
心臓が破れそうな程に脈打つ。
酸欠の頭が酸素を求め息が荒ぶる。
足が重い。腕も重い。全身が悲鳴をあげている。
それでも走った。
思考はまったく働いていない。
でも分かる。
どこをどう行けば彼の元に辿り着くのかは体に染み込んでいる。
走る。走る。走る。
ただ私が求める彼の元に走る。
私を求めない彼の元に走る。
これは私が望んだことだ。
他の誰でもない私が。
私の。
私、自身の想い。
私の意思。
ただ私の望むままに私の身体を動かして目指す。
足がもつれて転んだ。
足を擦りむいてしまった。
身体の節々が痛い。
でも立ち上がった。
また走った。
大丈夫。
踏み出すのは大変だった。
踏み出してしまえば簡単だった。
もうなにも考えなくていい。
私は私のことを理解した。
私が求めていることがハッキリ分かった。
だから後は走るだけなんだ。
走れば必ず辿り着くんだから。
私が求める彼の元に。
いつか必ず辿り着く。
だからなんの問題もない。
簡単なことだった。
こんなに簡単なことだったのに。
私⋯⋯バカだなぁ。
ドン!ドン!ドン!
玄関の方からなにかを激しく打ち付ける音が聞こえた。
⋯⋯なんだ?
一瞬、待ち人の姿が脳裏を過ぎるが、アイツがこんなことをするとは思えない。
ドン!ドン!ドン!
考えている間も扉は何度も叩かれた。
何にしてもこんな時間に迷惑極まりない。
対応すべく俺は小走りで玄関に向かう。
ドン!ドン!ドン!
「柳沼さんッ!柳沼さんッッ!!!」
扉の向こうから叫ぶように呼びかけられる。
この声は瀬良の声だが⋯⋯なにかあったのか?
扉を開ける。
するとやはりそこにはボロボロの瀬良が居た。
着の身着のまま飛び出したという表現がピッタリだった。薄汚れて所々が破けた服にボサボサの髪。オマケに膝を擦りむいたのか血が滲んでいる。
ヒヤリと背中を寒い物が駆け抜ける。
だが、そんな状況なのにも関わらず瀬良は笑っていた。
瞳から大粒の涙を流し、頬を汚しながらも⋯⋯。
それでも瀬良は笑っていた。
「おまえ⋯⋯一体何がーー」
「柳沼さんッ!!!」
俺の言葉を掻き消すように瀬良は叫ぶ。
真っ直ぐに俺を見つめる。
その勢いに気圧されながらも俺は瀬良の視線に答えて押し黙る。
「私のモノになってくださいっ!!!」
「⋯⋯⋯⋯は?」
瀬良の言葉に残念ながら俺の脳は追いつかなかった。
コイツは⋯⋯何を言ってるんだ?
そんな狼狽する俺を置き去りにして瀬良はさらに叫ぶ。
これまでに心の内に溜め込んだ全てを吐き出すように。
「私にはあなたが必要です!」
「お、おう」
「あなたは私を必要としていないかも知れません!」
「⋯⋯おう」
「でも私にはあなたが必要です!」
「⋯⋯⋯⋯」
「だから私のモノになってくださいッ!私のモノになって、これからずっと私の傍に居てください!私だけのために生きてください!私にはあなたが必要なんです!他の誰でもないあなたが必要なんです!他の誰かじゃダメだなんです!だから私のモノになってください!いえ!もうあなたは私のモノです!私だけのモノです!全部!全部全部全部ッ!私のモノです!今から!これからずっと!死ぬまで!死んでも!それでもずっと!私のモノです!」
正直な感想は「何言ってんだコイツ」だった。
こんなに言葉を吐き出す瀬良の姿は初めて見たかもしれない。
コイツが何かを求める言葉を初めて聞いた気がする。
まあ⋯⋯。
アレだな。
どうして瀬良がこうなってしまったのかは、まだよく分かっていない。
だが、
人からこうも求められることは⋯⋯ーー。
案外悪くないーーそう思った。
「入れ」
顎をしゃくって瀬良に背を向けた。
「ご要望のケーキは用意してある」
「⋯⋯⋯⋯誕生日、プレゼントは?」
「おまえの欲しいものくれてやるよ」
晩飯はカニ玉あんかけチャーハンと中華スープ。朝食はトーストと味噌汁 助部紫葉 @toreniku
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