第八話 『いざ、冒険者ギルドへ』


 目覚まし時計のバカデカい不快な音ではなく朝日の眩しさに目を覚ますのは、この世界に転生して今の所の一番の贅沢だと思う。

 転生して女の子になった苦労などは沢山あったが、それでも前世の負の側面を考えれば、こういう小さな幸せを心から楽しめるのは、本当に良い事だ。

 まだぼんやりする頭を振り、頬を叩いて掛け布団から這い出てベッドを降り、寝間着のボタンを外してスッポンポンになり、下着をつけて着替え始めた。


 青と白の縞々ストライプなショーツを履き、同じ柄のブラジャーを着ける。

 視線を下げれば視界に入る、同年代と比べて目に見える程に二回りも大きな二つの山。

 私も将来は、稀に現れ世界を拡張する女神様の様に、あんな感じの爆乳になるのだろうか。

 下着が終わり、箪笥をまさぐり服を選ぶ。

 と言っても、ワンピースしか持っていない上に数も少ないので、そんな選ぶ程の余裕は無いんだけどね。

 

 選んだワンピースを着て全てが終わり、近くに立っている姿見の前に立つ。

 鏡の中には、スカートの裾がフリフリの清楚な白いワンピースを着た、膝まで伸びるオレンジ色の長く美しい髪を垂らす、オレンジ色の瞳をした絶世の美少女が居た。

 ほんと、この世界がレベル制なら魅力レベルが限界突破してゲージを五周ぐらいしてんじゃねぇのってぐらいの容姿だ。

 女神様の容姿も信じられない程の絶世の美女だったが、巨神族になるには容姿が限界突破している事も条件になったりするのだろうか。


 姿見の前で軽くポーズを取って自身の容姿のヤバさを堪能した後、部屋を出た。

 廊下を歩いていると、食堂から何やら騒がしい雰囲気が聞こえてくる。

 なんだなんだ。


 食堂に入ると幼い子供たちが不安そうに集まり集っていた。

 見た目から、おそらく二階の自室の子供たちだろう。

 そんな幼い子供たちは口々に呟いてる。


「レナちゃん、どうなっちゃうの……?」

「大人たちが何とかしてくれる…… 筈だよね……?」

「薬を探しているって言ってたよ……?」

「大丈夫かな、レナちゃん……」


 皆してレナちゃんとやらの安否を不安がっている事だけはわかるが、いったい何があったのだろうか。

 その子供たちの近くに居る孤児院の男性職員に声をかける。


「なあ、何かあったのか?」


 私に話しかけられ、少し驚いている様子の孤児院の男性職員。

 少し襟を整え、私に優しく言ってくる。


「大丈夫だよ、安心していい。僕たちが何とかするからね」


 ああ、これはガチなやつだな。

 こうやって子供を追い払う時って、ガチでやばい事が起きている証拠じゃないか。

 仕方ない、こうなれば職員室に行って聞き耳を立ててみるかぁ。

 あいつら職員たちは子供の事だから聞き耳を立てられても子供だからどうせなーんも話が分からないだろうと高を括っている。

 だから少し聞いているのがバレたとしても、ぶっちゃけ簡単に言い訳できるのだ。


 そんな訳で、そっと食堂から離れ、スタスタと職員室に向かう。

 近くに図書室があるので、そこに行くフリでもしてれば聞き耳を立ててもバレないだろう。

 私ってば演技派だからね。


 職員室の前に来て、そっと扉を少し開け、それから近くの図書室に入って図書室の扉を少し開ける事で職員室の声に集中した。

 大人たちの声が聞こえてくる。


「まずいな、凝固型魔力症なのはわかっているが、薬が無い」

「この村に補給が来るのは来週らしいわよ? それまで持つと思う?」

「無理じゃな…… ワシの目では、あと三日が限度じゃ。ワイルドタイガーの爪があ有れば良かったのじゃがのぉ。それだけが足りん……」

「ワイルドタイガーだって!? 深淵の森の奥にある、魔の草原の魔物じゃないか! いったい冒険者にどれだけの額を積めば受けてくれるってんだ!?」


 なるほど。

 レナちゃんとやらが、凝固型魔力症に罹り、あと余命三日って所なのか。

 そして、それを治すには、ワイルドタイガーっていう魔物の爪の素材が必要だと。


 それにしても、深淵の森の奥かぁ……

 確か廃坑を進んだ先にある、深い森だっけ。

 深淵の森ってのは、結構やばい魔物が居る森だと聞いたことがあるな。

 その深淵の森の更に奥には魔の草原っていって、マジでシャレにならない魔物がウヨウヨしていらしい。

 そらぁ、冒険者に頼むにはどれだけの金額になるんだか。


 まあでも、ちょうどいいかもしれない。

 私、自分の能力を試してみたかったんだよね。

 しれっと廃坑近くに遊びに行って、しれっと廃坑に入って深淵の森に行ってこよう。

 たまに行ってる冒険者ギルドでの薬草採取って名目で行けば、誰も疑いはしないでしょ。

 んで、倒したワイルドタイガーを廃坑の入り口にポイーすれば、巡回の大人が気が付いて回収する筈。

 そうと決まれば、朝食後にチャチャっと冒険者ギルドにレッツゴーだな。



○○



 今日も快晴の空の下、坑道関係の事務を執り行っている建物で今日は労働をお休みしますと職場の人に伝え、そのままの足で冒険者ギルドへ。

 やってきた村の冒険者ギルドは、豪華な事にトタン板を一切使わずにレンガを大量に使用して作られた立派な建物。

 この村で、これぐらい豪華な建物なんて隷属教会の礼拝堂ぐらいだ。

 

 冒険者ギルドに入るも、その中で武器を持った人はチラホラと数人程度。

 こんな最果ての地で冒険者をする人なんて、そら少ないに決まっているってもんだ。

 そんな物好きは絶対数の中では少ないし、ここに居る冒険者の殆どが定住する不動産を持っていたせいで開拓入植団に編入させられた哀れな人たちばっかり。

 冒険者なんてものは冒険してこそだからね。

 定住している冒険者は少ないのだ。


 そんな訳で、いつものEランク依頼の掲示板を見る。

 キュア草が十本の依頼にゲドク草が十五本の依頼、その他は村の清掃だったりの依頼が複数出されている様だ。

 これを見る限りはキュア草のほうが楽そうに見えるけど、実はゲドク草のほうが森の中では目立つから簡単なんだよな。


 ゲドク草を十五本の納品依頼の依頼書を剥がし、カウンターに持っていく。

 奥の机で談笑していた受付嬢の一人がこちらに来た。


「あら、レミフィリアちゃんじゃない。今日もゲドク草の採取ね。ギルドカードを出して頂戴」


 ギルドカードを差し出すと、受付嬢はハンコをポンと依頼書に押し、それをギルドカードにかざす。

 そのギルドカードから光が出て依頼書をスキャンし、しばらくして光が無くなりギルドカード全体が淡く光った。

 受付嬢からギルドカードを受け取ると、受付嬢は聞いてくる。


「支給品は要る?」


 私はそれに首を横に振った。

 必要な道具は自分で持ちたい派だから、全部自前で用意してある。

 肩に下げた鞄からランタンの形をした魔物避けの装置を取り出して受付嬢に見せ、言う。


「じゃーん! 超が付く程の最新型でぇーす!」


 私の言葉に、受付嬢は呆れた顔で言ってくる。


「それ、すっごく高いシリーズじゃないの。子供なのによく買えたわね……」

「私、この年齢でもそれなりに収入があるのでっ!」


 呆れた様子の受付嬢にそう返すと、そういえばそうだったな、と言わんばかりの納得顔で頷く。


「そうだった…… 貴女、それなりに危険な労働も任されてるんだったわね」


 そう言うと受付嬢は私を見て言う。


「まあ、機材は問題無さそうなのは分かったわ。でも気を付けなさいよ? 外には魔物がいっぱいいるんだから」

「わかってるわかってる!」


 受付嬢の忠告に、私は軽く肯定してカウンターを去る。

 まあ、本当は魔物を避けるどころか、これから討伐しに行く予定なんだけどね。

 それは言わないお約束です。

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