第九話 『魔の草原に現れた上位存在』
木漏れ日が差し込む森の中、その奥の山の麓にある廃坑の入り口の前に来たレミフィリアは、その廃坑を閉じている鉄製の扉の鍵穴にキーピックを入れた。
ガチャガチャと弄った末に、いとも簡単にガチャリと鍵は開く。
周囲を見ては誰もいない事を確認してから扉を開いて中に入り、廃坑を進みながら独り言の様に今から行う事の確認を言い始める。
「えっと、先ずは確認なんだけど、絶対に使ってはいけないのはスキルのほうの『巨大化』だったよな? 確かスキルの巨大化を使用すると、戻った時に身長が二倍以上にデカくなっちゃう上に、女神様への種族進化のカウントダウンが進んじゃうって話だったか」
そう言いながら進むレミフィリアは、青白く光るランタン型の魔物避けの装置を握りしめ、その廃坑を進んでいく。
魔物が居そうな場所にあらかじめ魔除けの光を当てながら、確認の独り言を続けるレミフィリア。
「で、今回使うべきは巨神族の特殊能力としての巨大化か。こっちなら元の身長が二倍になったりしないらしいから、使うとしたらこっちだな」
周囲からレミフィリアを威嚇する魔物の声が響くも、レミフィリアは一切動じる様子は無い。
レミフィリアは、ふと礼拝の時間に勉強した内容を思い出し、一人呟く。
「にっしても…… 巨神族の能力で山みたいにデカくなって、それプラスでスキルの巨大化を使用すれば雲に届くデカさになれるって、それほんとかよって感じだよなぁ。女神メルナ様は巨神族の時に、それで大暴れしまくったって聞いたけど、私もそんな事できるのかなぁ」
廃坑を進むレミフィリアは、奥のほうから差し込む光を見る。
その光に向かって突き進むと、そこは入り口の森とは雰囲気だ違う、不気味な植物が辺り一面に生い茂る、薄暗い不気味な森が周囲を覆っていた。
そんな光景を見て、レミフィリアは言う。
「聞いていた通りの光景だなぁ。まさしく深淵の森って感じ」
周囲を見渡し、魔物が居ない事を確認してからランタン型の魔物避けの装置を鞄に仕舞い込むと、レミフィリアは体を丸める。
そして深呼吸して体の奥底に隠れている獣を解放するイメージで、腕を広げ空を仰いだ。
レミフィリアの体が、その美しい姿そのままに巨大化していく。
どんどんと大きくなり、やがては周囲の木々が踝より低い程に巨大な姿になった。
腰に手を当て、楽な姿勢になるために足を動かす。
その巨大なローファーが持ち上がり、偶然にもそこに居たウサギの群れを周囲の木々ごと踏みつぶした。
ズッドォオオオオン!ベキベキベキボキバキ! ブチブチブチブチュ!
ズッドォオオオオン!バキバキベキボキ! ブチブチブチュブチッ!
たった少し足を動かすだけで、そこに居た哀れな小動物をいとも簡単に虐殺する巨大なレミフィリア。
この強力な魔物が巣食う深淵の森に、圧倒的な強者が舞い降りた瞬間だった。
巨大なレミフィリアは周囲を見渡す。
その全てがミニチュアの世界を見渡した後、自身の身体を見て感心した様子で言う。
『おお…… これが巨大化かぁ。本当に全部が小さいな』
そんな巨大なレミフィリアは腰を曲げて下を覗き込み、足元の世界を見下ろした。
上から森を覗き込むも、巨大なレミフィリアには森の中の様子は小さすぎてよく見えない。
しかし、それでも確かに巨大なレミフィリアが見下ろす先には無数の魔物たちが存在しており、その圧倒的な強者に見下ろされ、魔物たちは何もできずに震え縮こまる事しかできなかった。
そんな哀れな魔物たちが居る事さえ気が付かない巨大なレミフィリアは、足元に広がる深淵の森の奥、巨大なレミフィリアにとっては遠くない距離にある草原を見つめる。
『あれが魔の草原ってやつか? 確かにチラホラと魔物っぽい奴らが見えるな』
巨大なレミフィリアは、そう言うと巨大な脚を持ち上げ、一歩を踏み出す。
大きなローファーが木々に広大な影を落とし、落下してく。
ズッドォオオオオン!ベキベキバキベキ! ブチュブチブチブチッ!
恐怖に怯え、その木々の陰に隠れていた沢山の狼の魔物たちを、その一足で周囲の木々と共に圧縮した。
大きなローファーが持ち上がり、靴底から現れたのは血と木々と土が混ざり合う全てが圧縮された深く大きな大きな足跡。
巨大なレミフィリアに意識される事さえ無かった哀れな魔物たちを見てか、深淵の森の魔物たちは一斉に逃げ出し始めた。
悲鳴のような鳴き声を上げながら必死に走る足元の魔物たちに気が付く様子も無く、巨大なレミフィリアは魔の草原に向けて歩みを進め、その大きなローファーが足元の哀れな魔物たちの上に続々と振りかざされる。
「ピヨピヨッ!! ピヨヨヨッ!! ピヨピヨ――」
「ワォオオオオン!! クゥン!! クゥゥゥゥン!! ワォオオオ――」
「キャンキャン!! キャ――」
ズッドォオオオオン!バキバキバキベキ! ブチブチブチュブチッ!
「ガウガウッ!! ガウガウガウッ!! ガ――」
「ブルルッ!! バウバウッ!! バウバウバ――」
「ギャウギャウギャウ!! ギャ――」
ズッドォオオオオン!ベキベキバキ! ブチュブチブチブチュ!
「ニゲロッ!! デカイ!! ツヨイ!! ニゲ――」
「カテナイ!! アレニハカテナイ!! ハヤクニゲ――」
「ハシレハシレ!! キョウシャ!! ダレモカテナイキョウシャ――」
ズッドォオオオオン!バキバキボキバキ! ブチュブチュブチブチュ!
その絶対的な力の前には、深淵の森の魔物たちはあまりにも無力。
何度も大きなローファーが振り下ろされ、無数の潰れた肉片が生産されていった。
深淵の森の魔物たちから聞こえてくる悲鳴のような鳴き声を聞き、魔の草原の魔物たちは振り向く。
魔の草原の魔物たちの眼に映ったのは、轟音を轟かせ迫る巨大なレミフィリアの姿。
地上のあらゆる生物とは一線を画す絶対的な上位存在としての存在感に、魔の草原の魔物たちは眺め見つめる事しかできない。
やがて魔の草原に足を踏み入れる巨大なレミフィリア。
巨大なレミフィリアが履く大きなローファーが、深淵の森の近くから見つめるしかできないでいた哀れなキングオーガの上に振り下ろされる。
ズッドォオオオオン! ブチュボキボキッ!
その大きなローファーに埋没させられた哀れなキングオーガ。
哀れな魔物が自身の靴裏に張り付いている事など知る由もない巨大なレミフィリアは周囲の下々の矮小な世界をぐるりと見渡し言った。
『ここが魔の草原かぁ…… 確かワイルドタイガーの爪が必要なんだっけ?』
巨大なレミフィリアの周囲に広がる魔の草原には、その巨大なレミフィリアからも認識できるぐらいの、親指の大きさ程の魔物が足の踏み場に困る程には生息している。
そんな矮小な魔物たちの世界を見渡し、巨大なレミフィリアは言う。
『ワイルドタイガーってことは、要は虎だろ? ふむ……』
足元で命の慈悲を乞うような瞳で見上げる魔物たちをざっと眺め、虎らしき魔物を探す巨大なレミフィリア。
虎らしき魔物はそれなりの数が確認できるが、そのどれがワイルドタイガーなのかは巨大なレミフィリアからは判別が難しい。
魔の草原に来る前に図書室でワイルドタイガーの姿を確認済みだが、巨大なレミフィリアから見るとどれも親指サイズ。
そんな小さすぎる周囲の魔物に、巨大なレミフィリアは溜息をついて言った。
『はぁ…… まあ、手当たり次第に狩りつくせば一匹ぐらいは見つかるだろ』
巨大なレミフィリアは足元の哀れな魔物の事なぞ配慮すること無く重低音を響かせ、その大きなローファーで魔の草原を歩きだす。
祈る様な瞳で見つめていた矮小で哀れな魔物たちが最後に見たのは、空を覆うプレス機のような大きなローファーの靴底だった。
ズッドォオオオオン! ブチュブチュブチッ!
ズッドォオオオオン! ブチブチブチュ!
ズッドォオオオオン! ブチュブチブチュ!
この魔の草原に君臨した絶対の支配者の行進に、矮小な魔物たちは必死に走り逃げ惑う。
その必死な形相で逃げる矮小な魔物たちだが、巨大なレミフィリアから見たら余りの鈍足だった。
ヨチヨチと逃げる虎の見た目をした魔物の群れの真ん前に大きなローファーが落下し、そこに居た数匹のオーガが巻き込まれる。
ズッドォオオオオン! ブチブチュブチッ!
突如現れた大きなローファーの壁に、虎の見た目をした魔物たちは立ち止った。
立ちはだかる大きなローファーの壁を見上げ、虎の見た目をした魔物たちは理解してしまう。
この巨大な美少女の御前では何もかもが無意味で無力だと。
無気力に立ち止まり、完全に諦めた虎の見た目をした魔物たちを巨大なレミフィリアは摘みあげ、見つめる。
『うーん…… やっぱり小さすぎて分かんないや』
そう言い、面倒そうに溜息を吐いて軽く指を閉める巨大なレミフィリア。
巨大なレミフィリアの指の中で諦めていた虎の見た目をした魔物はボキボキボキベキと、あらゆる骨が粉砕する音が全身から響きわたり鳴き声を上げる間もなく絶命した。
そんな仲間の様子を下で眺めていた虎の見た目をした魔物だが、もう何もかもを諦めた様子で静観している。
まるで生きる事を諦めたような虎の見た目をした魔物を次々と摘まんではトドメをさしていく巨大なレミフィリア。
巨大なレミフィリアは肩に下げた鞄から布袋を取り出し、その大きな手の中で事切れた虎の見た目をした魔物を入れる。
虎の見た目をした魔物の哀れな亡骸がボトボトと布袋に入って行き、全部が入ると巨大なレミフィリアは何かを思いついた顔で言った。
『そうだ。せっかくだから他の強そうな魔物も狩っちゃうか』
それから始まったのは魔の草原を支配する絶対君主様による、狩りとは到底言えない戯れのような何か。
子供が小石を拾い上げ集めるかの様に、哀れな魔物たちは巨大なレミフィリアに拾い上げられ手の中で事切れる。
魔物たちにとっての悪夢のような時間は何時間も続き、やがて昼時になる頃には魔の草原の魔物たちの総数は四割も減っていた。
しばらくして夕食時に近づく頃、偶然にも深淵の森を隔てる廃坑の前に来た冒険者パーティーが見たのは、廃坑の入り口で山のように天高く積みあがった大量のAランクやSランクの魔物の死骸。
その異様な光景に腰を抜かし、逃げ帰る様に冒険者パーティーはカーヴァン村の冒険者ギルドに報告に向かうのだった。
――――【あとがき】――――
・レミフィリアちゃん初の巨大化!
哀れな魔物たちの大虐殺シーンを楽しめたという方や「残酷な巨大娘が好きだ!」という方は、どうか★を沢山ください!
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・この小説から私の『でっかわいい!』シリーズを読んでくださっている皆さま。
驚かせてしまって、ごめんなさい!
今回の話の内容は突然の方針転換に感じるかもしれませんが、この要素こそが『でっかわいい!』シリーズの根幹であり一番の見せ場なのです!
これからこういう感じの展開が結構出てきますので、どうぞレミフィリアちゃんによる大虐殺シーンを楽しみに待っていてくれると幸いです!
もしこの第九話の大虐殺シーンが心の底から楽しめたのなら……
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