第13話 俺のダンジョン、またもやS級お嬢様+メイドさんに不法侵入される

「っしゃ、気晴らしに潜るか!」


 バイトを終え、自宅に戻った俺は一向に勉強を始めない熊美と熊乃をシバキ倒し、

 数学の基礎を叩きこんだ後、兎島ダンジョンリゾート学園のダンジョンフィールドを訪れていた。


「よっと」


 フィールド横に設置された配電盤を操作し、夜間照明を点灯する。

 電気代も馬鹿にならないが、今はダンジョンに潜りたい気分なのだ。


「うらあああああっ!」


 いつものゴブリンを狩るが、モンスターランクはDからE。

 やはり加恋がいないといまいち調子が出ない。もう普通の紳士向けDVDでは満足できない身体にされてしまったのか。


「ふぅ。

 加恋から連絡こないな」


 ダンジョンを閉じ、メッセージアプリの画面を開くが、加恋はオフラインだ。

 忙しいのだろうか? もしかして、両親の訪問を受けて……。


「外遊に行くって美崎さんから聞いたし、それはないか」


 頭を振って、嫌な考えを追い出す。


「どうやら、加恋は親父さんから期待されていないっぽいよな……」


 先ほどのヤカラ……もとい彼女の父親は男児が欲しかったと言ってたし、加恋のダンジョン生成者能力の発現が遅いことに幻滅していた。


「うーむ」


 ダンジョン学園に入学できたという事は、ダンジョン生成者(エディター)能力の『萌芽』はあるという事だ。父親の態度からして、偽装の裏口入学とは考えにくい。


「なら、彼女のトレーニングを手伝って……」


 どのタイミングでダンジョン生成者能力が発現するのか、長年の研究にもかかわらずよく分かっていないらしい。


 身体を鍛えていた方が確率が上がるという研究者もいれば、萌芽の時点で発現時期が決まっているという説もある。俺なんか当時バイトしていた解体業者の社長に風俗に連れていかれた時……。


「あ~、やめやめ!」


 トラウマが脳裏に蘇る。コイツは俺が今の状況に陥る原因となった出来事だ。思い出したくない。


「とりあえず、俺としては身体を鍛える説を取りたいとこだが」


 とはいえ、加恋はすでに十分に鍛えている。これ以上筋肉を付けてケツのムチムチ具合が減るのは避けたい。


「……もっかい潜るか」


 邪な感情が頭をもたげてきたので、俺はもう一度ダンジョンを展開することにした。


 ◇ ◇ ◇


「と、思ったらこれだよ……」


 十分後、問題なくモンスターを殲滅した俺はようやく落ち着いてもんもんを処理(婉曲表現)しようとダンジョンの通路に向かったのだが。


「は、はろ~、トラくん」

「夜分に失礼します。タイガ様。今晩のオカズは足プレイモノなのですね」

「な、なぜそれを!?」


 そこには先客がいた。

 綾瀬川ダンジョン学園の制服を一分の隙も無く着こなした加恋と、メイド服姿の美崎さんである。


「タイガ様はお嬢様……引いては綾瀬川家と正式に契約を結んだ方ですからね。二十四時間くまなくモニターしていますよ」

「え、なにそれ?」

「そんなことよりも、大変なのですトラくん!!」


 ばばっ


 俺としては、美崎さんのモニターとやらが気になるのだが、俺の前に割り込んだ加恋がクソデカボイスで叫ぶ。


「ど、どうしたんだよ加恋。またケツでもデカくなったのか?」

「それどころじゃありません!!」


 俺の軽口にも、反応する余裕がなさそうだ。


「んっ!」


 ガチャガチャとスマホを操作し、俺の眼前に付きつける加恋。そこには一通のメールが表示されていた。

『気が変わった。10日後、お前の学園を訪問する。発現した力をせいぜい我の前に示せ。ラヴェンナもいっしょに行く。 綾瀬川 驕司』


「……え?」


 そのメッセージを呼んだ俺は、思わず首を傾げる。

 メールの末尾に署名がされていることから、本日俺が担当した夫婦は加恋の両親で確定だ。


 だが、ヤカラもとい驕司氏は加恋の母親の誘いを断ったのではなかったか。

 あの剣幕で、わずか数時間後に前言を撤回するとは考えづらい。


「あ、美崎……調子に乗ってブルードラゴンの素材と自撮りした写真を送ったのがまずかったかな?」

「……それです。お館様に送る情報は、徐々に順を追ってと約束しましたよね?」


 ビキッ!


「ひうっ!? ごべんなしゃい……」


 ドラゴンをも消失させそうな、本気の美崎さんに睨まれ涙目になる加恋。

 どうやらまたも加恋のやらかしのようだ。

 コイツ、実は隠れドMなのでは?


「ふぅ、という事でタイガ様。偽装工作は私の方でも考えますが、それまでに加恋お嬢様がダンジョン生成能力を発現させるのがベストの方策になります。

 つきましては、お嬢様の特訓のお手伝いをお願いしたいのですが……」


「は、はぁ」


 何で俺はこの子の尻拭いばかり、とは思うがこれは好機である。

 加恋がちゃんと能力を発現させれば、父親は加恋のことを見直してくれるに違いない。


「了解しました。俺としてもダンジョン報酬が美味くなるのは嬉しいんで」


 綾瀬川家の家庭円満の為、俺も一肌脱ぐことにしよう。


「ありがとうございます! それでは明日から朝五時と夜二十一時に兎島ダンジョンリゾート学園ダンジョンフィールド前にお集まりください」

「「……え?」」


 美崎さんのトレーニングは、なかなかに過酷みたいだ。

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