第14話 加恋お嬢様を鍛えよう(物理)
「うぅ~、眠いですトラくん~」
翌朝五時前。ようやく東の空が白みだしたころ、俺と加恋は兎島ダンジョンリゾート学園のダンジョンフィールド前に集合していた。
「俺も。ふわあああああっ」
いつもの”朝ダンジョン”は午前七時くらいからなので、午前五時前からダンジョン探索というのは、俺も経験がない。というか、最近全く処理できてないので腰が重い。ていうかもしかして加恋の『授業参観』の日まで毎日これなのか?
ヤバい。ガチでピンチである。何とかビデオ映写室に行く時間を取ろうと心に決める。
「……それで、トラくん。それは何です?」
いぶかしげな表情をした加恋が、俺の背後を指さす。
今朝の加恋は制服でも私服でもなく、綾瀬川ダンジョン学園のジャージ姿である。
身体にフィットした形のジャージの上着。それを加恋は胸の下くらいまでファスナーを上げている。結果……。
(でけぇ!)
俺はおっぱい星人ではないが、確かな質量とボリュームを主張するその双丘。
m=p*4/3πr^3である。ボトムスがショートパンツなのもショートパンツフェチには素晴らしい。朝から満点である。早起きしてよかった。
「ん、これ?」
という内心はおくびにも出さず、背後に向き直る。そこに積まれているのは、大型トラック用のごんぶとタイヤ。俺が軽トラで運んできたものだ。
「トレーニングと言えば、これだろ?」
タイヤには荒縄が結び付けてある。その一端を加恋の腰に巻き付ける。
「え、はい? わたくし令嬢ですよ? 殿方に縄を巻くならともかく、自分が巻かれるなんて……ぽっ」
別の世界の扉を開きかけている加恋。こやつ、やはりMもいけるタチなのか。無敵か?
「じゃなくって、美崎!?」
慌てて美崎さんの方を見る加恋。美崎さんはいつもの水陸両用車(軍用)に乗り込んでおり、加恋の情報モニターを担当する。
「ご心配なく。ここはダンジョンフィールドですし、足元は負担のかかりにくい砂。連日の秘め事で加恋お嬢様の腰は充分に頑強ですから、問題ありません」
「のおおおおおおっ!? そうではなくっ! ほら、科学的なトレーニングとか効率的な負荷とかそういうのは?」
「?? 最後に重要なのは根性ですよ? はい、一本目開始。タイムが規定以下だと本数が増えますので」
「ぎにゃあああああっ!!」
悲鳴と共に、ずりずりとタイヤを引き始める加恋。
すらりとした脚に力が入り、ぽこりとふくらはぎの筋肉が浮き出る。
これは……いいな!
「くくっ、頑張れよ加恋」
とりあえずエールを送っておく。
「……トラ、後で覚えてなさい」
鋭い加恋の視線が俺を灼く。
「!?!?」
ぞくり
一瞬で魅了された俺は、ひとまず背中のクリーニングをすべく軽トラに戻るのだった。
◇ ◇ ◇
「ふう、いい汗かきましたわ。
ほら、トラ。もっと背中をたわませなさい? わたくしのケツが入らないでしょう?」
三十分後。トレーニングを終えたドS令嬢モードの加恋に、俺の背中を提供する。
汗を拭いたとはいえ、加恋の全身はしっとりと湿り気を帯び、ショートパンツの布地を通して加恋の熱が伝わってくる。
「ぐおお、お前のケツがでかすぎるんだよ。もうちょい夜の菓子を減らせ……」
「な、なんでわたくしが毎夜うなぎのパイを食べていることを知っているのです!」
がしっ
加恋の右腕が、俺の首に回される。つーかこいつ、毎日夜のお菓子と称されるあのウナギのパイを食べているのか?
そりゃケツもデカくなるわけである。
「そもそも、トラが余計なことを進言したせいで、わたくしは余分にもう一周する羽目になったのです。これは……お仕置きが必要ですね♡」
きゅっ
ASMRな加恋ボイスと共に、ほっそりとした彼女の指が俺の気道をを押さえる。
「がふっ、か、加恋……お前っ」
幾ら身体を鍛えても、気道を鍛えることはできない。
酸素の供給を絶たれた俺の脳は、救いを求めてグラグラと揺れる。
僅かに首を動かし、加恋の方を見る。
「ふふ、いいですねその眼差し。屈強な成虎に成長するだろう子虎が、圧倒的な親虎の暴虐の前に涙するような……くふ」
どくんっ
生命の危機に、心臓が高鳴る。ヤバい、これはまずい。そもそも今は加恋のトレーニングのハズだ。
俺は新たな扉を開いてしまいそうになったが……。
「測定完了。ふむ……特に加恋お嬢様の萌芽に影響はありませんね。やはり無駄骨でしたか」
「「なら、なんでこんな事させたんや!!」」
無慈悲に掛けられた美崎さんの言葉に、全力でツッコむ俺たちなのだった。
◇ ◇ ◇
「まあ、筋力が増すほど発現しやすくなるという説もありますからね。筋トレは続けましょう」
数分後、例のプレハブ小屋の中で俺たちは美崎さんの説明を受けていた。
テーブルの上には焼きたてのクロワッサンとブリオッシュ。フレッシュサラダとスモークサーモンのクレープが彩りを添える。
流石に朝からシャンパンはないものの、ドリンクは最高級茶葉を使った紅茶。
絵にかいたような上級朝食だ。
「……俺は別の扉を開くところでしたが」
ドMプレイにしてもあれはレベルが高すぎる。俺はまだ21歳なのだ。
「ふむ」
だが、興味深げな美崎さんの視線が俺を捕らえる。
「能力の発現には、コンビを組んだバディのランクが影響するという新説もあります。ここは……私が一肌脱ぎましょうか」
「!?!? 年上クールメイドが主人を逆レ!? そ、それは素晴らしい題材ですよ美崎!!」
……何かまた変な方向に話が展開しそうである。
そして加恋、朝からお嬢様が逆レとか言うな?
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