人間から名前と記憶を奪い、従順な番号へと変えてしまうシステム。
そんな極限のディストピアを舞台に、決して消えることのない「絆」の温もりを描いた、これはそんな物語です。
完全に管理された施設の中で行われる非人道的な『処置』。
個人の尊厳が徹底的に踏みにじられる描写には、背筋も凍る寒気すら覚えます。
ですがそんな絶望的な状況下でも、兄妹が交わした約束、大切な人に贈る花、不器用な手作りの髪飾りといったささやかな記憶の断片が、かすかに光り続けます。
無意識の行動や言葉の端々に現れる、表層的な記憶の奥深くで眠る絆の欠片は、物語を照らす一筋の希望。
その絆が、究極の選択の果てに何をもたらすのか。
たとえ姿かたちが変わろうとも、失われた記憶の向こう側で託された想いは、確かに未来へと受け継がれていく……
人間の尊厳は砕かれても、その愛と絆を奪うことはできない。
曖昧な時代を生きる私たちに、信じることの尊さを教えてくれる確かな温もりが、ここにありました。