4月30日 大友誠司による独白
4月下旬になった頃。クラスの空気が変わってきたことに、おれはいやでも気づいていた。
秋本楓だ。
彼が何かを発言するたびに、クラスの数人がくすくす笑う。ただの授業中の真っ当な発言でも。
また、教室後ろのロッカーに入れている体操服が、秋本楓のだけしばしば床に落ちているのを目にすることが増えた。時々踏まれたのか、上履きの跡もついている。乱雑に詰め込む生徒にはよく見られることではあるが、秋本楓はこの一か月弱観察した限りでは、どちらかというと几帳面な方であり、乱雑に詰め込むタイプには見えなかった。
秋本楓は元々一人でいることが多い生徒だったが、最近はいつでも一人だ。図書室にいたり、職員室に来て生活委員担当の篠田という年配の教師としゃべったりしている。しゃべるというよりは、秋本楓が一方的に自分の考えを言って、篠田先生がふんふんと聞いているだけなのだが。
いじめ――
というにはずいぶんと大人しい変化だった。秋本楓は元々友達が少ないようだったし、元々突拍子もないことを主張しはじめて授業が横道にそれることもよくあった。上履き袋の件だって入れ方が悪かったと言われればそれまでだ。だからおれも、静観するしかなかった。
掃除の時間は秋本
おれも何度か注意し、そのたびに「はーい、すみませーん」とみんな従うのだが、五分もしないうちにまた元通りのおしゃべりに戻っている。まだ面と向かって「嫌だ、めんどくさい」とでも言ってくれればこちらもやりやすいのだが、六年生にもなると知恵や社交辞令を身につけると見え、うわべの聞き分けだけは良いのでかえってやりにくい。
困り果てたおれは、学級委員の塚本
「それはよくないね。オレからも及川たちに言っとくよ先生。あーまあ、でも……」
と言い淀んで、
「秋本
と困ったようにへらっと笑った。
それはおれも気づいていた。秋本
こういうやつには――
こういう生徒への対応。それは行動自体は認めつつ、注意は大人の役目だからそこまで頑張らなくていいよ、と言ってやることだ。と、教師になって色々な本を読んでおれは学んだ。なのでおれはたびたび秋本本人にそう伝えているつもりだが、響いた様子は今のところない。
おれは塚本
「そうだな、先生も秋本くんに何回か、注意は先生がするから頑張りすぎなくていいよ、って言ったんだけどな」
と返す。塚本
「そうか、先生も彼には困ってるんだね……ふうん」
なにやら納得した様子でうなずいていた。
塚本
「秋本、それに木下、さあ、やれることを探してやってみよう」
オレは声をかける。やっぱりイジメかなと思ったのは、勘違いだったかな。
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