5月7日 広報委員の学級新聞作り
5月の土曜日。この日に集まろうと言い出したのは、佐々木
「うお、でっけえ!やべー、キレイすぎるな!」
沢口
「座って座って」
佐々木さんは手際良く、きれいなガラスのコップに麦茶を人数分注いで持ってきてくれる。来客用のコップってやつなのだろうか。お金持ちはそういうものを常に用意しているものなのだろうか。うちには多分そういうのはない。
リビングのローテーブルを囲んで四人で座る。高そうなソファーもあったが、テーブルで書き物をするには床に座った方がいい。床にはふわふわした高級マットのようなものが敷かれている。お茶をこぼさないようにしないと。正座がいいのかな、あぐらでいいのかな。
「よいしょー」
佐々木さんがどかっとあぐらをかいた。みんなふっと緊張の糸がとけ、ぼくと沢口
「みんなよろしくね。あたしとコーシは去年も広報委員やったけど、
いきなり下の名前呼び捨てだ。どぎまぎするが、悪い気分ではない。むしろ普段は友達から名前で呼ばれることがほとんどないので、少しうれしい。学校では男女ともに名前または苗字にさん付けで統一しあだ名は禁止する、というのは親世代にはなかった最近の流れらしいけれど(だから親は時々変な顔をするけれど)、逆にぼくのような友だちが少ない子どもは、同級生にさん付け以外で呼ばれることがほとんどないのだ。
あだ名で呼ばなくても――いじめがなくなるわけではないのだけれど。
「よろしく、佐々木さん」
橋本さんがぺこりとおじぎをすると、佐々木さんは笑って顔の前で手を振り、
「葵でいいよ、
佐々木さんがまだ授業では習っていない上杉謙信を知っているとわかり、うれしくなる。さすが物知りだ。
「ウエスギケンシン?」
沢口くんはきょとんとしている。
「歴史上の人物だよ。上杉謙信は戦国時代に、武田信玄と何度も戦ったんだ」
語り出すと長くなってしまうので、手短に説明する。
「へえ、じゃあ弟は信玄って言うの?」
「ううん、
「なんでだよ!」
沢口くん――
けれど正直、するすると歴史ネタが通じるこの空間が、ぼくには心地よかった。
「だからいつも歴史マンガ読んでんのか。歴史好きなん?」
「4月号の歴史の記事、よかったよ」葵さんが言う。「わかりやすかった」
「よく葵の無茶振りに答えられたよな」
「あれは
これは本心だった。
「あの時は絵のネタが思いつかなかったから、わたしも助かった」
「ごめんごめん。今度はほら、話し合って決めよ」
葵さんは悪びれてなさそうな明るい笑顔で言った。
ぼくはこの六年間で今が一番楽しいかもしれないなと思った。
「まじかー」
アンケート票を集計して、
前回の六年生の思い出づくり案について、クラスの全員に葵さんがアンケートをとったところ、肝試しとタイムカプセルに5票、グッズや記念品作りに2票、その他新しい意見もあったが、「学校や町のいろんなウワサを調査する」という案には1票も入っていなかったのだ。どうやら彼が特にやりたかったのはそれらしかった。
まあ無理もないよな、とぼくは内心思った。ぼくらが思っているほど、"調べ物"が好きな同級生は多くない。
「じゃあさ、うちらで調べようよ」
あっけらかんと葵さんが言う。「それで次の記事それにしよう」
「え、いいの?やるやる!」
「あたしも面白いなって思ってたんだ。それでママに聞いてみたんだ、ママ東小出身だから。なんか面白いウワサとかない?って」
行動が早い……葵さんはいつも行動が早い。
「そしたら面白い話聞けたよ。こっくりさんっていうやつ。コーシはなんかないの?」
「あるある、そもそもその話がしたかったのオレ。兄貴に面白いウワサ聞いてさ。ユーレイの、ヨシダくんっていうんだけど」
「そしたら謙信、学校の歴史とかって調べられたりする?それともこの地域のでもいいよ」
葵さんがこちらを見て言う。ぼくはうなずいて「どっちも書けると思う」と答えた。「それならいい感じでつながってまとめられそう。夏に向けてテーマ的にも合ってるし、肝試しするならそれにもいかせそう」と葵さんはぱっと立ち上がり、タブレットを取りに行く。
ぼくの趣味が取り入れられている。ぼくの意見が求められている。
ああ、広報委員に入ってよかったな。そう心から思った。
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