第十二章 新しい星
一週間後。
私は大学の研究室で、届いたばかりの手紙を読んでいた。
田中からだった。
『山崎さんの司法解剖結果が出ました。広範囲前壁梗塞。左前下行枝の完全閉塞。薬があれば救命可能でした。相沢は、殺人罪で起訴される見込みです』
もう一通は、北村博士から。
『天文台は一時閉鎖されますが、春には再開予定です。新しい台長の下で、真の研究ができることを願っています。あなたのお兄さんの研究も、改めて評価されることになりました』
最後の一文に、涙が滲んだ。
美咲が研究室に入ってきた。
「詩織、準備できた?」
「うん」
今夜は、市民天文台で観測会がある。美咲と一緒に、ボランティアで参加することにした。
「今夜は何が見える?」
「ペルセウス座流星群よ。輻射点はペルセウス座γ星付近。今年は月明かりがないから好条件」
美咲の説明は、いつも正確だ。
天文台に着くと、たくさんの家族連れが集まっていた。
子供たちの歓声が響く。
「わぁ、流れ星だ!」
「願い事した?」
無邪気な声を聞きながら、私は思った。
あの雪山の悲劇から、まだ一週間しか経っていない。でも、星は変わらず輝いている。
「詩織先生、これは何の星座ですか?」
小さな女の子が、私の袖を引いた。
「それはオリオン座よ。ほら、三つ並んだ星が見えるでしょう?」
「本当だ!」
子供たちに星を教えながら、私は兄のことを思い出していた。
兄も、きっとこんな風に、星の美しさを伝えたかったのだろう。
美咲が私の隣に立った。
「詩織、あれ見て」
彼女が指差した方向に、ひときわ明るい流星が流れた。
「火球ね。マイナス4等級くらいかな」
「流れ星に願い事は?」
美咲の問いに、私は微笑んだ。
「もう叶った。あなたと一緒に星を見られることが」
美咲の頬が、暗闇の中でもわかるくらい赤くなった。
「詩織...」
「これからも、一緒に星を見よう」
「うん」
二人で見上げた空に、また一つ、流れ星が流れた。
ペルセウス座流星群は、毎年8月に極大を迎える。でも、今年は特別だった。
私は初めて、復讐ではなく、真実と向き合うことができた。
そして、大切な人と一緒に、前を向いて歩けるようになった。
観測会が終わり、参加者たちが帰っていく。
私たちは最後まで残って、望遠鏡を片付けた。
「詩織、今度の週末、山に観測に行かない?」
美咲の提案に、一瞬躊躇した。
山。雪。天文台。
まだ、トラウマは残っている。
でも、美咲の温かい眼差しを見て、決心した。
「行こう。今度は、純粋に星を楽しむために」
「約束よ」
美咲が小指を出した。
子供っぽい仕草に、思わず笑ってしまった。
「約束」
小指を絡めた瞬間、また流れ星が流れた。
まるで、兄が祝福してくれているような気がした。
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