第九章 連星系

夜が更けても、誰も眠れなかった。


二人が死んだ。そして、次は誰なのか。


美咲と私は、彼女の部屋にいた。ドアには椅子でバリケードを作っている。


「詩織、本当のことを教えて」


美咲の瞳が、まっすぐ私を見つめていた。


「20年前の事故で死んだ人、あなたの誰なの?」


もう隠し通せない。美咲にだけは、本当のことを話そう。


「兄です。富永昭彦。当時、ここで天文学を研究していました」


美咲は息を呑んだ。


「それで、あなたは...」


「真相を知りたかった。兄は本当に事故死だったのか。なぜ助けられなかったのか」


涙が頬を伝った。20年間、ずっと抱えていた疑問。


「でも、私は誰も殺していない。信じて」


「信じてる」


美咲は私を抱きしめた。


「詩織が人を殺せるわけない。あなたのことは、私が一番知ってる」


その時、廊下から足音が聞こえた。


誰かが、ゆっくりと近づいてくる。


足音が、ドアの前で止まった。


ノックの音。


「開けてください」


北村博士の声だった。


「今は...」


「重要な話があります。20年前の真実について」


美咲と顔を見合わせた。罠かもしれない。でも、真実を知りたい気持ちが勝った。


バリケードを少し動かし、ドアを細く開けた。


北村博士が入ってきた。その表情は、深い悲しみに満ちていた。


「あなたのお兄さんと、私の恋人は、同じ夜に死んだんです」


「えっ?」


「私の恋人も、その夜、外に出ました。お兄さんを探しに」


初めて聞く事実だった。


「兄を探しに? なぜ?」


「お兄さんは、ある発見をしたんです。小惑星の軌道計算で、地球に接近する可能性のある天体を見つけた。それを黒田教授に報告しようとしたけど...」


「教授は聞き入れなかった?」


「逆です。その手柄を横取りしようとした。お兄さんは抗議しましたが、教授は観測データを没収し、お兄さんを観測から外した」


私の中で、何かが音を立てて崩れていく。


「それで兄は...」


「自分でデータを確認するために、東側の望遠鏡を使おうとした。でも、吹雪で...」


「あなたの恋人は?」


「彼を助けに行った。でも、二人とも...」


北村博士の目から、涙がこぼれた。


「黒田教授は、二人が外に出たのを知っていた。でも、自分の保身のために、朝まで黙っていた」


「それを山崎さんも?」


「後から知って、ずっと罪悪感に苛まれていた。だから、私は昨日、山崎さんに真実を告げた。あなたが黒田教授を殺したと」


衝撃の告白だった。


「私が、黒田教授を殺しました」


北村博士は、静かに続けた。


「20年間、この時を待っていた。黒田が死ぬのを見たかった。でも...」


「でも?」


「山崎さんまで死ぬとは思わなかった。精神的ショックが引き金になるなんて」


田中の声が、ドアの外から聞こえた。


「全部聞かせてもらいました」


ドアが開き、田中と相沢が入ってきた。


「北村博士、あなたを拘束します」


相沢が北村博士に近づいた。


しかし、北村博士は首を振った。


「私は黒田教授を殺していません」


「えっ?」


「殺したかった。でも、していない。誰かが、私より先に...」


その時、停電が起きた。


真っ暗闇の中、誰かの悲鳴が響いた。

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