第六章 ブルーシフト

夕食の準備の時間になった。


食堂には重苦しい空気が漂っていた。誰もが疑心暗鬼になっている。黒田教授を殺した犯人が、この中にいるのだ。


「まずは事実を整理しよう」


相沢が切り出した。


「教授は昨夜11時頃まで生きていた。死亡推定時刻は午前0時から2時の間」


「その時間、みんなどこにいた?」


北村博士の問いに、それぞれが答えた。


「私は部屋で論文を書いていた」相沢。

「薬を飲んで寝ていた」山崎。

「救急バッグの点検をしていた」田中。

「詩織と一緒にいたわ」美咲。


全員にアリバイがあるようで、ない。一人でいた時間は、誰にでもあった。


山崎が立ち上がった。顔色が悪い。


「すみません、少し横になります」


「大丈夫ですか?」


田中が心配そうに山崎を見た。


「少し胸が重い...でも狭心症の発作ではない。たぶん疲れです」


「念のため、心電図を取らせてください。簡易型ですが持ってきています」


田中は素早く機器を取り出し、山崎の胸に電極を装着した。モニターに波形が現れる。


「ST低下があります。心筋虚血の所見です。安静にしていてください」


山崎は頷いて、自室へ向かった。


その後ろ姿を、北村博士がじっと見つめていた。その目には、何か決意のようなものが宿っていた。


「私、山崎さんに話があります」


北村博士が突然立ち上がった。


「今は安静が必要です」


田中の制止を振り切って、北村博士は山崎の後を追った。


残された私たちは、不安な面持ちで顔を見合わせた。


10分後、北村博士が戻ってきた。顔は青白く、目は赤く充血していた。


「何を話したんですか?」


「20年前の、本当のこと」


彼女の声は震えていた。


「山崎さんは知っていた。あの夜、恋人が外に出るのを黒田教授が見ていたことを。でも、止めなかった。観測を優先した」


「それを今まで黙っていたのか」


相沢の声に怒りが滲んでいた。


「山崎さんも共犯だったということですか?」


「違う! 山崎さんは後で知ったの。でも、職を失うのが怖くて...」


美咲が私の手を握った。彼女の手も震えていた。


この天文台には、20年前の亡霊が棲んでいる。そして、その亡霊は復讐を始めたのだ。

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