第47話【国王アルトリウス視点】獅子の咆哮

「――下層地区の民衆は、聖女への完全な支持を表明! 宰相の策略は、完全に裏目に出た模様にございます!」

伝令からの報告に、私は玉座の間で静かに頷いた。

潮時は、満ちた。


「近衛騎士団長!」

「はっ!」

「宰相オルダス・フォン・グライムを、反逆罪の容疑で拘束せよ。執務室を封鎖し、証拠の一切を確保しろ。僅かでも抵抗するならば、斬り捨てて構わん!」

「御意!」

騎士団長が、精鋭を率いて玉座の間を飛び出していく。


「ゲルハルトよ、鐘を鳴らせ。そして、我が息子リチャード、娘イザベラ、そして教皇聖下を、直ちにこの玉座の間に召集せよ。……アストライア国王アルトリウスが、永き眠りより目覚めた、と」

「は、ははっ!」

ゲルハルトが、涙ながらに駆け出していく。

ゴォォォン……ゴォォォン……

王の覚醒を告げる、重く荘厳な鐘の音が、数年ぶりに王都中に響き渡った。


やがて、玉座の間に、蒼白な顔をした者たちが集まってきた。

何が起きたか理解できず、ただ呆然と私を見つめるリチャード。

全てを悟ったように、静かに私を見据えるイザベラ。

そして、神の奇跡か、あるいは悪夢かと、狼狽を隠せない教皇。


そこへ、鎖に繋がれたオルダスが、騎士団に引きずられてきた。

「陛下! これは一体、何の真似ですかな!? この私を、反逆者と!? 何かの間違いではございませんか!」

オルダスは、なおも白々しく叫ぶ。

「黙れ、国賊めが。父君の忠義を、私怨のために踏みにじった愚か者よ」

私の静かだが、怒りを込めた声が、玉座の間に響き渡る。


「貴様が余に呪いをかけ、先代への恨みを晴らさんと、この国を混乱に陥れたこと、全てお見通しだ。貴様が『災厄の匣』の呪いを持ち出し、下層地区に毒を撒いた証拠も、間もなく見つかるだろう」

「なっ……!?」

オルダスが、初めて血の気を失った。

リチャードも、信じられないという顔で、私とオルダスを交互に見ている。


その時だった。

玉座の間の巨大な扉が、ゆっくりと開かれた。

そこに立っていたのは、民衆の歓声に送られ、堂々と歩みを進めてくる、セレスフィア・フォン・リンドヴルム。

そして、その腕の中に抱かれた、青く小さな、この国の真の救世主。

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