第46話【セレスフィア視点】真実の光と、民衆の声

「報告! 下層地区の複数の住民が灰色の痣と共に倒れたとの報せ!」

斥候からの緊急報告に、待機していた騎士団内に緊張が走る。

来た。陛下の予測通り、オルダスが動いた。


「全隊、出撃! 目標、下層地区中央広場! 何としても、被害の拡大を食い止める!」

私は、イザベラ王女から預かった近衛騎士団、そしてカシウスと共に、王都を疾駆した。

だが、私の心は不思議と落ち着いていた。なぜなら、私よりも先に、あの小さな奇跡が、既に邪悪な企みを嗅ぎつけて飛び出していったのを、見ていたからだ。


下層地区に到着した私たちが目にしたのは、想像とは全く違う光景だった。

そこには、パニックも、絶望もなかった。

中央広場の井戸の周りには、人だかりができていた。彼らは、狂喜の声を上げながら、清冽な水を汲み、その奇跡を分かち合っていた。

そして、その中心、井戸の縁の上で。

ポヨン様が、まるで自分の手柄を誇るかのように、ぷるん、と満足げに体を揺らしていた。


「……ポヨン様が、間に合ってくださったのね」

私が安堵の息を漏らすと、住民たちが、私たちの姿に気づき、道を開けた。

彼らの目に、もはや恐怖や疑心の色はなかった。そこにあるのは、絶対的な信頼と、感謝の光。

一人の老婆が、私の前に進み出て、震える手で私の手を取った。

「聖女様……我々は、愚かでした。あのような酷い噂を信じ、あなた様と聖獣様を疑ってしまいました。どうか、お許しください」

その言葉を皮切りに、人々は次々とひざまずき、許しを乞い始めた。


「顔を上げてください、皆さん。あなた方が悪いのではありません。あなた方を騙し、恐怖に陥れた者がいるのです」

私は、集まった民衆一人一人の顔を見据え、声を張り上げた。

「真の災厄は、病ではありません! 人々の心を弄び、この国を内側から蝕む、邪悪な意志です! 私、セレスフィア・フォン・リンドヴルムは、聖獣ポヨン様と、この国を守る全ての騎士の名において、その災厄を断ち切ることを、ここに誓います!」


「おおおおおっ!」

民衆の歓声が、王都の空に響き渡った。

それは、偽りの噂が打ち破られ、真実の光が差し込んだ瞬間だった。

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