第28話【第一王女イザベラ視点】神殿の茶番と、盤上の混沌
大神殿の審問会。全く、退屈極まりない茶番だわ。
教皇も、大神官オーギュストも、神の威光を笠に着て、自らの権威を守りたいだけ。私の愚かな弟リチャードは、あのスライムをすっかり自分の手駒にしたと信じ込み、その力をどう利用して私を出し抜くか、そればかりを考えている。その浅はかな思考が、手に取るように分かって滑稽だわ。
その中で、唯一、この茶番を面白くしてくれそうな駒は、セレスフィア・フォン・リンドヴルム。
彼女、オーギュストとの神学論争で、一歩も引いていない。没落したとはいえ、リンドヴルム家の蔵書は侮れないということかしら。あるいは、彼女自身の才覚か。どちらにせよ、ただ守られるだけのか弱い令嬢ではないことは確かね。
論争が行き詰まり、オーギュストが聖水の儀式を始めた時、私は内心でため息をついた。ああ、また陳腐な奇跡ごっこが始まる、と。
邪な魔物であれば聖水で浄化される。そんな分かりやすい結末で、この場を収めようという魂胆でしょう。
けれど、私の予想は、実に愉快な形で裏切られた。
あの青いスライム――ポヨンとか言ったかしら。あの子は、神官たちの厳粛な儀式を、まるで食事の時間か何かと勘違いしたらしいわね。
聖水を振りかけられ、喜んだかと思えば、その体の一部を伸ばし、あろうことか、聖水を全て吸い尽くしてしまった。
オーギュストの顔が驚愕に引きつり、弟の顔が「何が起きているんだ」と混乱に染まる。その様を見ているだけで、今日の退屈は十分に癒された。
儀式の最中、私は必死で笑いを堪えていたわ。けれど、あのスライムが最後の一滴まで聖水を「ずずーっ」と音を立てて吸い上げた瞬間、もう限界だった。
「ふっ……くくっ……あははははっ!」
私は、込み上げてくる笑いを抑えるのをやめ、腹を抱えて笑い転げたわ。
面白い。実に面白い!
この小さなスライムは、神殿の権威も、王家の権力闘争も、この国を縛るあらゆる常識やルールを、その無邪気さで、いとも簡単に破壊していく。
セレスフィア・フォン・リンドヴルム。貴女は、とんでもない嵐をこの王都に連れてきたものね。
弟も、大神殿も、この混沌をどう収拾するのかしら。せいぜい、高みから見物させてもらうわ。この盤は、ますます面白くなってきたのだから。
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