第二十一話:人類の希望
2045年10月1日
世界樹攻略合同部隊総指揮官・三浦 健
太平洋上・海上中継基地「アーク」司令室
静寂。
司令室の巨大なホログラムモニターに、世界樹の根元から地中深くまで広がる、複雑極まるダンジョンの立体構造図が、青白く浮かび上がっている。各国の軍人、研究者、そして覚醒者部隊のリーダーたちが、息を詰めてその図を見つめていた。
そこへ、総指揮官である
彼の脳裏には、炎と黒煙の中で沈んでいった、かつての乗艦「いずも」の光景がよぎる。
あの時は、ただ為すすべもなく、未知の脅威に翻弄されるだけだった。だが、今は違う。人類は力を得て、知恵をつけ、自らの手で脅威に立ち向かおうとしている。彼は、この変化に静かな感慨を覚えていた。
「作戦会議を始める」
三浦 健の一言で、司令室の空気が引き締まった。
各部門のリーダーが、次々と報告を行う。
地質学部門のリーダーが、厳しい表情で口を開いた。
「総指揮官。報告します。世界樹の根は、地球のマントル層にまで達しており、惑星そのものをエネルギー源としている可能性が濃厚です」
続いて生物学部門のリーダーが報告する。
「内部からは、コードSクラス…これまでのどの魔物とも比較にならない、強力な上位種の魔物反応が多数検知されています」
最後に、魂科学部門のリーダーが、震える声で告げた。
「そして、最深部。ここに、黒いモヤの根源と推測される、巨大な魂のエネルギー体が確認できます。同時に…我々が求める『蘇生』や『修復』の根源情報も、そこに集中していると見て間違いありません」
司令室に、緊張と、わずかな希望が入り混じったどよめきが広がる。
三浦 健は、それらの報告を冷静に聞き、分析する。
「攻略は絶望的に困難だ。しかし、成功すれば、我々は全てを取り戻せる」
彼は、ホログラムモニターを睨み据えた。
「これより、世界樹ダンジョン攻略作戦、『プロジェクト・ラグナロク』を発動する。第一段階として、先遣隊による第一階層の威力偵察を行う。目的は、戦闘ではなく、情報の収集だ。絶対に深入りはするな」
後日、海上基地アークの出撃ゲート。
世界樹ダンジョンの第一階層へ挑む、最初の先遣隊が出撃準備を整えていた。覚醒者とバトルスーツ使用者の混成部隊である。隊員たちの顔には、緊張と、歴史的な任務に就くことへの誇りが浮かんでいた。
先遣隊隊長が、部下たちに檄を飛ばす。
「ビビるなよ! 俺たちの後ろには、全人類の希望が繋がってるんだ! 行くぞ!」
「応!」
隊員たちが応える。
司令室の三浦 健は、モニター越しに、彼らに静かに語りかけた。
「諸君は、人類の希望の尖兵だ。繰り返す。生きて情報を持ち帰ることこそが、君たちの最大の任務だ。健闘を祈る」
先遣隊は、世界樹の根元に開いた巨大な洞窟へと、次々と突入していく。
司令室のモニターに、彼らが装着したカメラからの映像が映し出された。内部は、禍々しい植物が発光し、おぞましい魔物たちが蠢く、異様な世界だった。
ザザッ…!
映像が激しく乱れ、隊員たちの悲鳴と、戦闘音が響き渡った。
数時間後、司令室は重い沈黙に包まれていた。
先遣隊は多大な犠牲を出しながらも、第一階層の貴重なデータを持ち帰り、辛うじて帰還した。
モニターには、持ち帰られたデータが表示されている。人類の想像を絶するダンジョンの規模と、魔物の強大さ。この攻略が、数年、あるいは数十年単位の、永い戦いになることを誰もが悟った。
三浦 健は、静かに部下に指示を出す。
「…犠牲者の魂の保護状況を確認。帰還した隊員から、詳細な聴取を行え。そして、第二次攻撃隊の編成案を、明朝までに私のデスクに」
彼の目は、モニターの奥、まだ見ぬダンジョンの最深部を、強く睨み据えていた。
人類の反撃の狼煙は上がった。それは、一つのダンジョンを攻略する戦いではない。地球という惑星そのものに根を張った、巨大な神話との戦いであった。この日から始まった永い戦いの果てに、人類が何を見出すのか、まだ誰も知らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます