第四部:再誕 - The Rebirth

第十六話:鉄の救世主

2041年5月1日

元・特別高度救助隊員・藤本 悟

最先端技術開発センター


広大なシミュレーションルーム。ホログラムで再現された崩壊都市の中で、数名の若者が、覚醒した能力を使い、仮想の魔物と戦っている。

その様子を、コントロールルームのモニター越しに、藤本 悟ふじもと さとるが険しい顔で見守っていた。齢三十代後半、その身に宿る筋肉は少しも衰えていない。しかし、彼の着ている制服は、現場のものとは違う、教官用のものだった。


マイクに向かって、彼の的確な指示が飛ぶ。

「そこだ! 連携が甘い! 個の力に頼りすぎるなと言ったはずだ!」


若者たちはハッとして動きを修正するが、藤本 悟の表情は晴れない。

俺の体はもう、時代遅れか…。

ダンジョンでの救助活動は、今や覚醒者たちの独壇場となっていた。超人的な力を持たない彼のようなベテラン救助隊員は、その経験と知識を後進に伝える役割に追いやられている。一人でも多くの命を救いたいという情熱は、今も彼の胸で燻り続けていた。


その日の午後、彼は開発センターの研究室にいた。

白衣を着た研究者が、藤本 悟に最新の研究成果を説明している。モニターには、人間の魂から発せられる特殊なエネルギー、ソウルパワーの青白い解析データが映し出されていた。


「我々の研究で、このソウルパワーは、程度の差こそあれ、全ての人間の魂に内在していることが判明しました」


「全ての人間に…? では、俺たちの中にも…」


藤本 悟は、驚いて聞き返した。


「はい。しかし、問題は、その力を自在に引き出し、行使できるのは覚醒者だけだということです。我々のような非覚醒者のソウルパワーは、魂の奥底で眠ったまま、宝の持ち腐れになっている」


藤本 悟は、改めて自分と覚醒者との間にある絶対的な壁を感じ、唇を噛んだ。


「ですが、藤本さん。我々はその眠れる力を、外部から強制的にこじ開ける技術を開発しました」


研究者が見せたのは、ホログラムディスプレイに映し出された、無数のケーブルと魔石が組み込まれた重厚な強化外骨格、バトルスーツの設計図だった。


「このスーツは、装着者の魂に直接リンクし、休眠状態のソウルパワーを強制的に励起、動力源として利用します。言わば、あなた自身の魂をエンジンにするのです」


藤本 悟の全身に、電流が走った。自分の中にも眠っている力。それを解放する鍵が、目の前にある。失われたはずの未来、再び最前線で人々を救う道が、目の前に開かれたのだ。


「俺に、これを着させてくれ。俺自身の力で、もう一度…人を救いたい」


彼の目に、かつての特別高度救助隊員としての鋭い光が戻っていた。


数週間後、広大な起動実験場。

藤本 悟は、初めてプロトタイプのバトルスーツを装着し、その中央に拘束されるように立っている。スーツの内部から伸びた無数のケーブルが、彼の体に接続されていく。


アナウンスが響く。

「システム起動。ソウルパワー、強制励起シーケンス、開始」


ウィィィン…。

スーツの各部が青白く発光する。藤本 悟の全身に、これまで感じたことのない激痛と、魂を直接掴まれるような感覚が走った。


「ぐっ…うおおおおおっ!」


彼の体から、眩いばかりのソウルパワーが引きずり出され、スーツの動力炉へと注ぎ込まれていく。やがて痛みが引き、想像を絶する力が、彼の全身に漲った。


「模擬戦闘訓練、開始!」


彼の目の前に、ホログラムのホブゴブリンが数体出現する。藤本 悟は、スーツの腕を振るう。それは、彼自身の魂の力が変換された、まさしく彼自身の「力」だった。彼は、スーツの圧倒的なパワーと、彼自身が長年培ってきた救助技術を融合させ、魔物たちを次々と撃破していく。

その様子を見学していた若い覚醒者たちが、驚愕の表情で見つめていた。


「なんだよ、あの人…。俺たちと同じ…いや、それ以上のソウルパワーを無理やり引きずり出してるのか…とんでもない化け物が生まれたぞ…」


動ける…俺の力で、まだ戦える!

藤本 悟は、このスーツが、人々を救うための最高の道具になることを確信していた。


後日、とあるダンジョン内部。

藤本 悟は、正式配備されたバトルスーツを纏い、自らが率いるバトルスーツ部隊の先頭に立って進んでいた。隣には、覚醒者たちの部隊もいる。前方から、魔物の大群が出現した。

覚醒者部隊長が叫ぶ。


「散開! 遊撃!」


藤本 悟も叫ぶ。


「我々は前線維持! シールド展開!」


覚醒者たちが、自らの魂の力で魔法や特殊能力を放ち、魔物の群れを翻弄する。その前面で、藤本 悟たちのバトルスーツ部隊が、自分自身の魂を燃やして生み出したエネルギーによる、組織的な一斉射撃と鉄壁の防御線を築いた。ファンタジーとSFが融合した、新たな連携戦術が生まれる瞬間だった。藤本 悟の活躍は、覚醒できない人々にとっての、新たな希望の星となった。


眠れる魂を科学の力でこじ開け、人類は脅威に対抗するための第二の剣を手に入れた。天賦の才で扉を開いた「才能」である覚醒者と、自らの魂を燃やして道を切り開いた「技術」であるバトルスーツ。二つの系統の英雄たちが、手を取り、あるいは競い合いながら、世界の未来を切り開いていくことになる。

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