18話 手作り弁当?
会長連中が中庭から去ったあと、俺たちも教室へ戻った。
あの魔法師生徒会長が来てから、なんかどっと疲れたような気がする。
まあ、左手の傷を治してもらったことには、感謝しているが。
それにしても、騎士生徒会長のアラン……
特級騎士のレオ同様に‘‘おそらく‘‘かなりの強者だ。
‘‘おそらく‘‘ というのも、アランはなぜか、力量が全く読めなかった。
こんなことは初めてだ。
俺は今まで相手の力量が読めないなんてことは、1度もなかった。
だが、力量が読めなくても、アランがこの学校最強なのは間違いなさそうだ。
根拠はないが、断言できる。
なんとも不気味で不思議な感覚だ。
そんなことを考えながら、1-Eの教室までたどり着いた。
そして教室のドアを開けると……クラスの連中は黙りこみ、俺たちに視線を向けた。
「……」
教室内はシーンと静まり、誰も言葉を発しない。
なんというか、とても居心地が悪いんだが……。
まあ、気にしないでおこう。
俺たちは自分の席に向かい、椅子に座る。
そして―
……ん?
俺は机に、ある異変を感じた。
机の中に……何か入っている?
俺は何一つ、机の中に物を入れていない。
誰かがイタズラか嫌がらせで、ゴミでも入れたのか?
どちらでもいいが、ゴミなら邪魔だな。
俺は机の中に手を突っ込み、ガサガサとその何かを取り出した。
「なんだ……これは」
俺の机の中に……
ピンク色の風呂敷に包まれた、可愛らしい弁当箱が入っていた。
「ユーリ、そのお弁当……」
隣の席のロミオも驚いたように弁当を凝視している。
「わ、わからない……一体、誰が―」
俺はクラスの連中を見回した。
だが、目があった数人は、みんな首を横に振っていた。
クラスのやつじゃないのか?
そうこうしていると―
廊下の方から、朝と似たような視線を感じた。
俺はさっと視線の先へ目を向けるが……やはり誰もいない。
一体何なんだ?
とりあえず俺は、目の前の弁当箱を空けた。
「こ、これは……」
弁当箱の中身は、隅々まできれいに豪華な料理が敷き詰められていた。
卵焼きや唐揚げ、ステーキに高級エビ、握り飯、サラダやフルーツなど
とても1人では食べ切れない様々な料理が入っている。
「す、すごいね。ユーリ、本当に心当たりはないの?」
ロミオは弁当を覗き込み、疑問を投げかけた。
「いや、本当にわからないんだが……そもそもこの学校に知り合いはいないしな……」
俺は再び、弁当を見つめた。
卵焼きやフルーツなどはハート型にカットされており、サラダには食用の可愛らしい花が添えられている。
この可愛らしいピンク色の風呂敷からも、作ったのは女性で間違いないだろう。
具材一つ一つ手が込んでいて、まるで想い人に作るような、そんな愛情を感じる弁当だ。
だが俺に、一体、誰が……
い、いや、よく考えろ。
そもそも、これは本当に俺あてに作られたものなのか?
俺は目をつぶり、思考をフル回転させた。
そうだよな……俺は昨日入学したばかりで、この学校に知り合いはいないし、そもそも好意を抱かれるような行いや振る舞いを何一つした覚えはない。
そうだ、きっとこれを作った人が間違えて
俺の机に入れてしまった……そうに違いない!
やれやれ、危ない所だった。
何が危ないのか俺にもよくわからないがとにかく危なかったぜ。
俺は全ての謎を解き明かし、弁当箱の蓋をそっと閉めロミオへ真相を話した。
「ロミオ、これは間違って誰かが俺の机に―」
俺はそう言って弁当を持ち上げた瞬間、弁当箱と風呂敷の間からスルっと紙切れが床に落ちた。
ロミオはその紙切れを拾いあげると、顔を赤くした。
「どうしたんだ?」
俺は思わずロミオに尋ねた。
「あの、これは……ユーリの為に作られたものみたいだよ」
ロミオは紙切れを俺に見えるよう差し出して見せた。
そこにはピンク色のペンで書かれたような丁寧な筆跡で―
「愛しのユーリ様へ。ユーリ様のことを想いこのお弁当をお作りいたしました。お口にあうか分かりませんが、どうか食べて頂けると幸いです」
と記されていた。
「な……」
いや、ほんとに誰だよ!
せめて、名乗ってくれよ!
恐すぎるんだが!
「ユーリ、これはラブレターならぬ、ラブ弁なんじゃ―」
ロミオは少しもじもじとしながらそんな言葉を口に出した。
ラブ弁って何だ!?
そんな単語、初めて聞いたんだが!?
いや、それ以前に―
「か、顔も名前も知らないやつに、急にこんなの作られても、こ、怖いだけだって!いやほんとに!」
俺は少し動揺してしまって、変に言い訳じみた言い方になってしまった。
俺は何一つ悪いことはしていないのに……
それしても本当に、どうすればいいんだよコレ。
俺は弁当箱を再び見つめる。
……だが、差出人もわからない弁当に箸をつける気にはなれず、俺は弁当をそっと机の中へ戻した。
いや、ほんとに変なものとか入ってたら怖いし。
なぜか、昼休みなのに、全然休めた気がしないぜ。
「はぁ~」
俺が深いため息をつくと同時に、昼休み終了のチャイムが教室中へ鳴り響くのだった。
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