17話 騒がしい人


 振り返ると、そこには2人の女が立っていた。

 声を発した女は、きりっとした面構えで、堂々と胸を張り、両腕を胸の前で組んでいた。

 そして、左手の腕章には ―魔法師生徒会長― と記されている。

 背丈はレイラ教官と同じく160cmほどあり、艶やかな黒髪は腰のあたりまで伸びている。

 とてもキレイな顔つきで、どこか大人びている、そんな印象だ。


 「ユリネ魔法師生徒会長だ!」


 「あ~、今日もキレイだな~」


 周りからそんな声が聞こえてきた。

 そして、アランが口を開く。


 「やあ、ユリネ。今日も僕をつけてきたのかい?」


 ……つけてきた?

 すると、ユリネの顔がみるみるうちに赤くなっていく。


 「んなっ……ば、バカなことを言ってんじゃないわよ! たまたま! そう、たまたまそこを通りかかっただけなんだから!」


 ユリネは胸の前で堂々と組んでいた腕を振りほどき、取り乱している様子だった。

 かなり動揺している。

 こいつ本当にストーキングしていたのか?

 すると、隣に立っている女がボソボソと口を開いた。


 「ユリネ会長……正直に言えばいいのに。アラン会長が恋しくて恋しくて、常日頃からス―」


 「ななななな、なんのことかしら! ちょっとミア! あんたは黙りなさい!」


 ユリネは慌てて、隣の女の口を両手で塞いだ。

 数秒前に登場した時のユリネの印象が、一瞬で崩れ去った。

 そして口を開いたミアという女は ―魔・副会長― と記された腕章をつけており、透き通るような銀色の髪はサイドで2つに結んでおり、結んだ髪は真っすぐに腰のあたりまで伸びている。

 その可愛らしい髪型とは裏腹に、表情とその態度から物静かそうな印象を受けた。

 そして、アランが少し呆れたように口を開く。


 「やれやれ……それで何の用だい?」


 「ふ、ふん! そこの下級生君は、あんたの得体の知れない魔法に怯えているじゃないの! そんなことにも気づけないで、生徒会長を名乗る資格があるのかしら!」


 ユリネは俺を指さしそう告げた。

 そしてアランは俺に視線を合わせる。


 「ユーリ君、そうなのかい?」


 「えっと、まあ……」


 俺は少しだけ頷いた。


 「そうか、それはすまないことをしたね。……僕の配慮が足りなかった、どうか許してほしい」


 アランは申し訳なさそうに謝罪をしてきた。


 「いや、そこまで謝らなくても―」


 俺がそう言うと


 「わかればいいのよ! わかれば!」


 っと、俺の言葉の上からぶせるようにユリネが言った。


 そして―


 「下級生君、その左手、ちょっとみせてみなさい」


 そう言って、ユリネは俺に近づいてきた。


 「あ、ああ」


 俺は言われた通り、火傷を負った左手をユリネの前に出した。

 ユリネは両手を俺の手に近づけて、ブツブツと詠唱を唱える。

 そして、ユリネの両手の前に魔法陣が展開される。


 「極・治癒魔法 ―エクストリーム・ヒール―」


 ユリネはそう呟くと、俺の左手はとても温かい光に覆われた。

 そして、その光が消え去ったときには、俺の焼けただれていた皮膚が元の状態に戻り、傷が完全に治っていた。


 「すげえ……」


 俺は驚き、声が漏れていた。

 治癒魔法については俺も知っていたし、実際に見たこともある。

 だが、俺が今まで見てきたものは、応急処置レベルのもので、ここまで完璧に傷を治癒できるものは初めてだった。

 アランと同様に、この魔法師生徒会長……どうやら只者ではないということか。


 「これで大丈夫よ。下級生君、これから何か困ったことがあれば、あ・そ・こ・の・男ではなく、この私を頼りなさいね」


 ユリネは笑顔のまま、ある一部分を誇張して、そう言った。

 そしてアランは苦笑いをしながら口を開く。


 「やれやれ……いつものことだが、君は僕に張り合わないと気が済まないのかい?」


 ユリネは顔を少し赤くしながら、アランを指差した。


 「は、張り合うもなにも! あんたには何一つ負けてないんだから! ふん!」


 そう言って、ユリネは腕を組み、胸を張った。

 いつも……ということは、アランは常にこのように絡まれているのか?

 少しだけ、アランがかわいそうだと思ってしまった。

 そんなことを考えていると、副会長がボソボソと口を開いた。


 「ユリネ会長、この前の魔法科学の筆記試験、アラン会長が学年トップで、ユリネ会長は2位だったはずじゃ―」


 「ああああああああああ! この口かしら! うるさいのはこの口か・し・ら!」


 「ひ……ひた……うぃです……ゆりえ……かいしょう」


 ユリネは副会長の両頬をつまみ上げていた。

 魔法師生徒会長……何とも騒がしい人だ。


 「やれやれ……ユーリ君、とりあえずこの件は僕が教官へ報告をしておくよ。それじゃあ、またどこかで」


 アランは俺に笑顔でそう言い、中庭を後にした。


 「ちょっと! 私を無視して行くんじゃないわよ!」


 「ユリネ会長……ほっぺ……痛い」


 そういって、会長連中は中庭から消えていった。


 …………。


 周りは急にシーンと静けさを取り戻した。


 「なんか、騒がしい人だったな……」


 「そ、そうだね」


 俺とロミオは顔を見合わせ、苦笑いをしていた。

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