第11話・和の城の舞踏会はシュールな舞踏会
カルマは自宅の裏にある天然のかけ流し温泉で、一日の疲れを癒やしていた。
縫合線がある体を触りながら、カルマはお湯の中で大きく伸びをする。
「ふぅ……庭を掘ったら湧き出た天然の露天風呂……癒されるぅ」
生ゴミを埋めようと、掘った穴から湧いた温泉──村の人たちが、カルマのために整備して素敵な露天風呂にしてくれた。
カルマは露天風呂の目隠しで植えられている、植木を見て思った。
「植木よりもヨシズの目隠しの方がいいな……現状変換しょう」
植木がチート能力でヨシズの目隠しに変わる。
「これで、よしと」
お湯の中から立ち上がったカルマは、異様な気配を感じて一瞬、ブルッとした。
いきなり、カルマの裸体を背後から、何者かの手と足が絡まるように抱きつく。
カルマに抱きついた見えない何者かは、すぐにカルマから離れて、片目アイパッチのミイラ男が姿を現すと。
ヨシズを破壊して逃げて行った。
「賽河 カルマの体サイズを手と足で覚えたぞ! 胸と腰と尻のサイズを忘れる前に、バカ王子に報告して賞金ゲットだぜ!」
突然のコトに茫然とするカルマ。
ハッと我に返ったカルマが、包帯男が逃げて行った方向に向って怒鳴る。
「てめぇ! 壊したヨシズ直せ!」
◇◇◇◇◇◇
数日後──バカ王子のフイッシュ・ミント城から舞踏会のドレスと、招待状がカルマの家に送られてきた。
カルマの家に遊びに来ていたリンネは、背中と胸元が開いたドレスを見て感嘆の声を発する。
「うわぁ、なんかエロいドレス」
ドレスと一緒に送られてきた、スリングショットの下着をつまみ上げるリンネ。
「露出度高っ、ほぼ、裸じゃないコレ? ドレス着たら肩ヒモ出るし……この下着、着るの?」
「誰がそんな過激な下着着るか! 女はフンドシで十分……舞踏会はドレス作ってくれた、仕立て屋に悪いから出席する」
「そっか……あたしも出たいな舞踏会……美味しい料理も出るんだろうな」
リンネが背中側に折れて、牙が生えた口を露出させているのを見たカルマが言った。
「舞踏会に出たかったら、あたしの知り合いの仕立て屋に頼んでドレス作ってもらうか」
「舞踏会に行けるの?」
「招待状には、あたし以外の人間が舞踏会に来ちゃいけないとは書いてないからね……村の娘全員を、舞踏会に連れていきたいくらいだ」
◇◇◇◇◇◇
数日後──村の仕立て屋にカルマが頼んだ、リンネのドレスが完成した。
ハギレ布をつなぎ合わせた、個性的なドレスだった。
ヘソ出し腹部が開いたドレスを着たリンネが、背中折れして鋭い牙が覗く。
「このドレスなら、美味しいモノいっぱい食べられるね……カルマありがとう」
ドレスを着たカルマも微笑む。
「そろそろ、城から迎えが来るころだな」
家の外から、キィキィという何かが擦れる音が聞こえてきた。
外に出て見ると、ヒビが入ったガラスの馬車がやって来て、カルマの家の前に停まった。
今にも崩壊しそうなガラスの馬車を見て、カルマが呟く。
「あの、バカ王子……本当にガラスの馬車で迎えに……アホか!」
カルマは、村から見えるフィッシュ・ミント城に視線を向ける。
ドレス姿のカルマが言った。
「気に入らないから、現状変換のチート能力で、変えてしまおう」
洋風の城が一瞬で和風の城に変わる。
同時にガラスの馬車も、二
「これでよし、誰が途中で車輪が砕ける危険がある、ガラスの馬車で舞踏会に行けるか」
カルマとリンネが乗り込んだ駕籠は、駕籠かきに担がれて和の城へと向かった。
「エッホ、エッホ」
◆◆◆◆◆◆
丘の上にある和の城──フィッシュ・ミント城を改め『ドクダミ城』となった城の廊下を足早に走る、家老の姿があった。
「殿ぅ、次々と舞踏会参加の姫君が、駕籠で到着しておりますぞ」
数分前まで王さまだった殿さまが、扇子を仰ぎながら言った。
「くるしゅうない家老、舞踏会の準備を進めるのだ……時にバカ若君はどうしておる?」
「はっ、
「そうか、今回の舞踏会で正室が決まるとよいな……早く奥方をめとって、世継ぎの子作りをしてもらわないと……バカ若君が気に入っている、娘の名前はなんと言ったかな?」
「確か『賽河 カルマ』とか」
「そうか、その娘が口にする料理に気持ちが昂ぶってバカ若君と、床を共にする気分になる薬の混入を」
「御意……すでに見晴らしが良い天守に布団を敷いて、準備は整っております」
殿さまの前から去って行こうとした家老は、立ち止まり振り返って城主に訊ねた。
「時に殿……わたしたちは、最初からこの姿でしたかな?」
◆◆◆◆◆◆
ドクダミ城の中庭に設けられた舞踏会場は、異様な雰囲気に包まれていた。
着物姿の娘と、ドレス姿の娘が混在して、チョンマゲ頭の男たちが娘たちと社交ダンスで踊る舞踏会。
カルマとリンネは、踊らずに立食の食事だけを満喫していた。
背中折れしたリンネが、赤い舌を出して貪り食う。
「うめぇ~、この料理うめぇ~」
カルマが家老から皿に盛られて差し出された、和食を食べながら内心思った。
(あっ、料理の中にエッチな気分にさせる媚薬が混入されている……チート能力〝薬物無効〟で普通の料理に変えちゃえ……あのバカ王子もといバカ若君、あたしと何をするつもりだったんだ)
◇◇◇◇◇◇
やがて、チョンマゲ頭で和装姿で
バカ若君がカルマを見つけて近づく。
「そろそろ、わたしの求愛を受け入れてくれる気分になったかな……天守に特別な部屋を用意したので……さあ、契りの交尾を……」
バカ若君の言葉が終わる前にカルマの鉄拳が、バカ若君を空に彼方にブッ飛ばす。
「アホか、おまえのようなバカ若君にチート能力使うのも、もったいない夜空の星になれ!」
「ひぇぇぇ! また来週!」
バカ若君は、定番の意味なしセリフを叫んで、昼間の月に向って飛んでいった。
カルマが、飛んでいくバカ若君を望遠鏡で眺めていた、殿さまに言った。
「舞踏会の料理、美味しかったのでフードロスしたくないから、容器に詰めて持ち帰って、村のみんなと分けて食べるから……容器に入らない分は後で村に届けさせて……殿さまのおっさん」
殿さまは、将来バカ若君の正室になるかも知れない、カルマの言う通りに残った料理を容器に詰めさせて。
カルマとリンネは、料理だけを食べて村へ帰った。
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