配信者


「ここ、何処だ……? クソッ、暗くてまともに前が見えない……」


 俺は不安で腰に携えた剣を握り締める。

 そして、一歩、また一歩。

 確実に前に足を進めていた。


「お〜、出られなくなっちゃったけど中々作り込みの細かい遺跡だねぇ〜、遺跡探索配信者として結構やりがい湧くんだけど!」


「……っ! 誰、だ……」


 背後から声が聞こえ、

 勢い良く後ろを振り向く。

 後方からの強い光に目が眩み、

 目を閉じる羽目になった。


「おわ、私の他にも被害者さんが……第一村人、発見! って奴?」


「ここに住んでる訳じゃないけど……」


 俺より二歳程度は若いであろう女の子は、片手に何かの機材であろうか。

 機械の国『マディ』での異世界からの来客からの技術提供で生まれた『スマートフォン』を携えてた。


「こんな暗い所で明かりもなしだと危ないですよ〜っ! 暗がりが好きなモンスターに襲われちゃいますよ〜?」


 ……随分と、ノーテンキな子だ。

 こんな遺跡の深い暗闇の中に居ると言うのに、暗闇に侵される素振りは見せず上機嫌に振舞っていた。


「貴方はどこから来たんですか? この遺跡に何の目的が?」


 質問コーナーの様な問いかけが始まる。

 俺はバカ真面目に『剣聖』と『剣鬼』からテレポートで逃げたら勝手にここに来た。

 だなんて言って信じて貰えると思っている程馬鹿では無い。


 俺は軽く嘘をつく事にした。

 そっちのが、気狂いの変な奴だって怪しまれなくて済むだろうし。


「知り合いに先に行く予定の遺跡の下見をお願いされたんだ。不死の魔物がいたら、特攻の物を持って行けるようにって」


「な〜るほど〜? アンケ取っても良いかな?」

 

「ア、アンケ?」


「アンケートって事です! 貴方を信頼して良いかって視聴者のみんなに聞こうと思って〜……」


 随分と失礼な事をする子だ。

 どうせ怪しまれて信用するなと言われるのが関の山だろう。

 俺は出口を探す為に、歩を進め始めた。


「あぁ、待ってください〜! どっか行かれちゃうと視聴者数が減っちゃうから〜!」


「君は……配信でもやってるのか? さっき、遺跡探索配信者とか言っていたけど」


「えぇ、そうです! 遺跡探索で、古代に残された謎や宝物を探して、ガッポガッポ稼ぎながら配信で更に稼げるダブルシステムです!」


 ……最近の子は頭が良いな。

 俺はテレビに慣れるのでやっとだった。


「どうせなら内カメにして一緒に映りましょ! アンケの結果も気になりますよねっ!」


 女の子は俺をグイッと引き寄せ、

 スマホの画面側の方に持ってくる。

 スマホの画面を見ると、そこには──ケミカルな色の名前欄と右には白い文字の『コメント』と呼ばれる物。

 赤く強調された『ギフト』と呼ばれる物。


 様々な色が絡み合って、目が疲れそうだ。


 そして右上にはグラフの様なアンケートが乗っていた。

 今は……。


『信用していい:48%』

『信用してはいけない:52%』


 まぁ、そうなるよな。

 けれど──俺の顔を見てから、コメントの流れが急激に早くなった。


『この人見た事ある!』


『剣聖と剣鬼の幼馴染の人だ』


『なんでこんな場所にいんの?』


 アンケートのグラフが急激に傾き、

 『信用していい』の方にかなりの勢いで傾き始めた。

 テレビに映っただけでこの効果、

 最近の世の中は怖い。


「貴方、剣聖様と剣鬼さんのお婿さんなんですか?!」

 

「……違う、テレビの誤放送だよ。俺は確かに、アイツらの幼馴染だけど……」


「ほえ〜! こんな場所であの二人の幼馴染さんに会うとは、縁も不思議ですね〜! 私はこっから出られないから終わりですけどね!」


 ──随分と陽気に終わりを告げる子だな。


「出られない? 出口は?」


「閉まっちゃいました!」


 これは随分とまずい状況になった。

 ここから出られないとなれば、餓死か。

 はたまたモンスターに殺されるか。


「だから最後まで、このダンジョンを攻略して……後世の役に立ちたいんです! それが、遺跡探索配信者の第一目標ですから!」


 この子はかなり崇高な目的を持っている。

 『誰かの役に立ちたい』という思いに嘘は無さそうだ。

 なら俺もこの子の為に……最後まで、

 縁を信じてみよう。


「明かりを持ってくるのを忘れたんだ、明かりは頼むよ。前は──俺が歩く」


「おぉっ、男らしい! これは心内高評価もうなぎ登りですよ〜!」


「そう言われると恥ずかしくなるからやめてくれ……」


 後ろから前を照らしてもらいながら、

 左右を見渡し歩を進める。

 モンスターがいたとしても、

 この子だけは守らなければならない。


「あ、モンスターが居ますね!」


「え、嘘だろ? ど、何処に?!」


「私、モンスターの弱点が見えるんです! 上に弱点が見えるので、上に潜んでますね!」


 俺はこの子の言う通りに上を剣で突く。

 すると上の階から絶叫が飛び、

 モンスターの死骸であろう灰が降り注いだ。

 

「凄い能力だな……まるで、透視みたいだ……」


「透視なんて大層な物じゃありませんよ! ある程度、弱点とか隙が見えるだけです!」


 この子の視界を頼りにしながら、

 遺跡の中を探索していく。

 特に能力も何も持っていない俺が、

 不甲斐なく思えてしまう。


「そう言えば、私だけお名前を知っているのも不躾ですね! ハイトさん、でしたっけ?」


「あぁ、ハイト・メイル。合ってるよ。君の名前は?」


「私はメリッサ・エルドリッヒです! メリッちゃんとか呼ばれてます!」


「……良い名前だ、メリッサって呼べばいいかな?」


 暗く、不気味な雰囲気に包まれた遺跡の中で他愛もない会話で未だに仄暗いが俺達の間で少しの明かりが点る。


 一本道が永遠とも思える程に続いている。

 いつモンスター達が襲ってくるかわからない緊張感に包まれながらも、俺達の会話は止まらない。


 生まれた場所、好きな物、趣味。

 些細な会話が続き、俺とメリッサの二人の仲は暗い遺跡の中で進展して行った。

 

「お二人に結婚を迫られていた所を、テレポートでここに逃げ込んだのが真実なんですか?!」


「あぁ、同僚に逃がして貰って……なんでアイツがこんな遺跡に行ってたのかは謎だけど」


 そろそろ壁が見えてくる頃だろうと、

 足を進める速度が段々と落ちていた時。

 突如、空中に浮いた。

 いや、落ちているのが正しいんだろう。


「おわぁぁぁぁ!!!」


「おぉ、トラップですか!! 古典的ながら効果的な落とし穴ですね!」


「冷静に分析出来るの凄いな?!」


 俺は空中で必死にもがく。

 メリッサは空中で顎に手を置いて、空中で大袈裟に分析していた。

 

「『ウィンディ・バウンサー』!」


 俺は地面スレスレになった瞬間、

 地面に魔法を唱える。


 俺達は風に跳ね返され、

 比較的衝撃を抑えられた結果になった。


「ここ、何処だ……?」


「どうやら遺跡の地下のようです! 大体、こういう所には……ボスが居ますね!」


「ボ、ボス……?」


 俺達が顔を向き合わせていた時──。

 隣から暖炉の様な火の光が差す。

 そして、顔を横に向けると。


「これは、消えない炎を燃料に動くゴーレムですね! 遺跡ではありがちですけど……なんか、大きいですね!」


「人の大きさでは、無いな……」


 巨人とも言える強大なゴーレムが、

 俺達の目の前でのっそりと起き上がった。

 

 

 

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E級冒険者の俺の昔に別れた幼馴染は剣聖と剣鬼になっていました。〜俺に構っても得はないんだから頼むから自分の道を歩んでくれ〜 ハンノーナシ/たいよね @taiyonekun

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