[第8もふ]ナマケモノの大移動
その朝、いつものようにのんびりと目を覚ましたポミイは、ふわあっと欠伸をして玄関のドアを開けた。
──そこには、見渡す限りのナマケモノ。
マンションの廊下は、ゆっくりとした呼吸と柔らかい毛並みでぎっしり埋め尽くされていた。
「……え、えええっ!?」
ポミイの声に、数十匹のナマケモノたちが同時に顔を上げた。その速度も、もちろんとても遅い。
「僕たち、スローライフ株式会社で働きに来ましたぁ」
代表らしきナマケモノが、のろのろとそう名乗った。
「ここに来れば、ぼくらでも働けるって聞いたんですぅ……!」
「働いたことはないんですけどぉ……!」
「でも、仕事ってちょっと憧れるんですぅ……!」
次々とゆっくりした声が響く。廊下にぎゅうぎゅう詰めのナマケモノたちの「やる気」に、ポミイは思わず頭を抱えた。
「ま、待って待って! そんな大勢で来られても、うちには……」
だが、ナマケモノたちはすでにマンションのドアを次々とノックしていた。
「わたしたちも社員にしてくださいぃ」
「名刺ってどうやってもらえるんですかぁ」
「電話番って、寝ながらでもできますかぁ」
部屋の前で繰り広げられる質問攻め。
ゆっくりなのに止まらない、その勢いに、ポミイの心臓はばくばくと早鐘を打った。
──マンションは、今やナマケモノたちの大行進で占拠されている。
スローライフ株式会社、かつてない大慌ての朝を迎えていた。
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