時代は大正、舞台は銀座。
美しい骨董屋の主人と、美しい大女(女装したイケメン)が怪異に挑む王道サスペンス。
鬼の噂、血生臭い連続殺人、謎…まるでミステリー小説を読んでいるような重厚な怪異譚となってます。そして時代背景も細かにストーリーに組み込まれ、時代小説好きの方にもぐっさり刺さる仕様になってます。
とにかくキャラクターが大好きすぎて。彼らの会話劇だけでも満足できます。骨董屋の蛇川の暴君っぷりと、彼を支える女装イケメンの吾妻のコンビは息ぴったりで、まさに探偵とワトソン役のような雰囲気が漂いとっても魅力的です。読者の皆様におかれましては、特にこの吾妻の正体についてぜひ第一話を読んで知っていただき、カッコ良さにきゅんとして欲しい…ほんとに。
物語は1話ずつしっかり事件が解決していくので、文字数などは気にせずまずは第一話から読んでいただきたいです!虜になります。
文体も美しく、ルビや改行も細やかで、非常に読みやすいです。
加えて登場人物たちの絡みも楽しく、誰一人として舞台装置キャラになっておらず、夢中になれます。今後の展開も楽しみです!
個人的には実写ドラマとかして欲しい…
ミステリーやあやかし、怪異が好き…探偵と相棒のバディもの、ミステリー好きな方は超絶お勧めです。
ぜひお読みください!
<一を読んでのレビューです>
最初の一文「道を間違えたのだと思った。」からもう、読者は物語の外へ押し出される。文明開化のざわめきから一転して、仄暗い部屋に足を踏み入れた瞬間の空気の濃さ。子猿の剥製や、乾いた指、刺さったままの短槍といった品々の並びは、説明を超えてただ「場」を立ち上げてしまう。
圧巻なのは、本棚の描写だろう。高天井まで書籍が詰め込まれ、「夥しいまでの思索の跡」とまで言い切られる一節は、単なる蔵書の存在感を超え、本棚そのものを人格のように感じさせる。読んでいて、重しのような圧力が確かに胸に乗ってくる。
そして、蛇川という人物の登場で一気に景色が変わる。紫壇の机に足を投げ出す姿は無作法なのに、同時に「堂々」としていて隙がない。白昼の幽霊のように色素の薄い容貌、暴力的なまでに美しい顔立ち──「美しい。美しすぎて、いっそ恐ろしい」という断定は、その人物像を最も簡潔に、最も強烈に刻み込んでくる。
さらに会話の毒が心地よい。「僕の城であまり臭い息を吐いてくれるなよ。香炉が泣くぞ」という一言に、この男の美と毒と傲慢さがすべて集約されている。嫌味であるのに、不思議と読者の側が魅了されてしまう。
全体を通して、舞台の立ち上げと人物の鮮烈な提示が巧みで、第一話としての牽引力に満ちている。銀座の片隅にこんな異界が口を開けているというギャップがまた世界観を際立たせる。