核抑止論の本質
平井敦史
第1話
WEB小説サイトであまり政治関連の話には触れないつもりだったのだが、戦後80年ということでちょっとだけ。
主に北朝鮮の核疑惑絡みで、日本も核武装するべきという議論が定期的に出てくる。
これについて、唯一の被爆国がー、というような感情論を排除して議論してみたいと思う。
もちろん私自身、広島長崎の惨禍を各種媒体で目にして、逆に日本が加害者になるのは絶対に許容しがたいという気持ちはある(たとえ、実際に使用することは99.99%ありえないとしても)。
それでも、日本の核武装が我が国の安全と東アジアの平和に資するなら、それもやむを得ないだろう。
しかし残念ながら、そうはならないと考える。
そもそも核抑止論は、第二次大戦後の東西冷戦構造の中で、米ソ両大国が互いに睨み合い、両国の制御下において、ギリギリの綱渡りとして成り立っていたものだ。
その一方であるソ連が崩壊した結果、アメリカによる統一秩序が確立――という話にはならなかった。
いまや核は大国の制御を離れ、いわゆるならず者国家やテロリスト集団にまで拡散しつつある。
そのような状況下で、日本が核武装することにはたして意味はあるだろうか。
核冷戦――双方核兵器を持っての睨み合いにおいて、最も重要なことは何だろうか。
核兵器の質? 量? 運用方法? いやいや、そんなものは二の次三の次だ。
一発でも核ミサイルを撃てば、反撃されて自国は滅び、さらには人類滅亡にまで発展する、それがわかっていてなお、あいつらはぶっぱなしかねないヤバい連中だ――と、相手に思わせること。それこそが最大の肝だ。
恐ろしいことに、北朝鮮はアメリカ相手にそれに成功した。
だから、世界一という表現すら愚かしいほどの核超大国、史上唯一核兵器を実戦使用し、先制使用を公言して憚らないアメリカが、北朝鮮の核開発に右往左往しているのだ。
そう考えると、もし仮に日本が核兵器を保有したとして、北朝鮮やあるいは中国に対してイニシアチブを握れるとは到底思えない。
破滅するとわかっていながら核ミサイルを撃つぞと脅す側は、常に日本以外である。
これははたして、偶発的核戦争のリスクを上げてまで取るべき選択肢だろうか。
はっきり言おう。
核冷戦において、真っ当な民主主義国家は絶対に無法者国家に勝てない。
それはそうだろう。
独裁者ならば、相手国に対し「核ミサイルを撃てるものなら撃ってみろ。わが国民はそんなことを恐れはしない」と言い放てるだろう。
(それを聞いた国民がどう思うか、クーデターの引き金にならないか、といった話はひとまず措く)
だが、民主主義国家の元首がそんなことを口にしたら、即失脚だ。
その後に続く言葉が、「でも私の選挙区はやめてね」であろうと、「たとえ私の選挙区が標的となろうとも」であろうと。
核不拡散という概念が、そもそもはまやかしである。
「我々には核を正しく運用する能力と資格があるがお前たちにはない」と言われて、相手が「はいおっしゃるとおりです」と納得する、などという幻想がかろうじて成り立ったのは、米ソ両大国の制御がまがりなりにも機能していたからだ。
その構造が壊れた今、核兵器は「俺は持つけどお前は持つな」は通用せず、「みんなが持つ」か「誰も持たない」かの二択しかない。
前者が最悪の悪夢である以上、やはりそれがどんなに険しく困難な道であろうと、後者を目指すしかないのだ。
最後にもう一つ。
日本の核武装論において欠落している(ように思われる)議論がある。
それは、「日本が核を持ったら、当然韓国も対抗してくるはずだけど、いいのか?」という点だ。
私は、韓国を過度に敵視したり見下したりする風潮には反対だが、それでもやはりあの国が核武装することには恐怖を覚える。
だから、日本の核武装を論じるなら、韓国の核武装を防ぐ有効で現実的な方策か、韓国の核武装が不可能であると判断できる合理的根拠を提示してもらわないと、到底納得できないのだが、そのような点にまで切り込んだ議論を寡聞にして知らない。
こう書けば、日本が核武装するしないにかかわらず韓国が核武装するリスクはあるのだから日本が先にやるべきだ、と考える人もいるかもしれない。
しかし、先の話に戻るが、日本がイニシアチブを握ることが不可能である以上、無用にリスクを高める選択肢は取るべきではないだろう。
結論。核武装はリスキーなばかりで無意味である。少なくとも、日本が真っ当な民主主義国家である限りにおいては。
核抑止論の本質 平井敦史 @Hirai_Atsushi
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