CERES07-AAR-03α 手榴弾

銃声が轟き、閃光が通路を白く染めた。

マラリ小隊の射撃が、正面から迫る異形の胴体を次々と穿つ。


「手応えあり! 貫通してる!」

ロドリゲスが叫ぶが、すぐに顔を歪めた。

「……だが、止まらねえッ!」


敵の肉体は明らかに損傷していた。

しかし、管のような器官が断たれても、腕が弾け飛んでも、異形はわずかによろめいただけで、なお前進を続ける。


「な、なんだよこれ……」

ウエンナーが呆然と呟く。

その背を、ガルシアが強く叩いた。


「ウエンナー、動いて! カバーするから!」


ガルシアの声に我を取り戻したウエンナーが体勢を立て直し、再び銃を構える。

だが、そのときだった。

暗闇の奥から、さらに別の音が響いてきた。


――ギィ……ギィ……ギュン……ギュン……。


硬い外殻と肉が擦れ合う、異様な摩擦音。

足音ではない。何かが這いずり、跳ねるように近づいてくる。


「っ、まだいる……!? 複数体だ!」

ノヴァが通路の奥へと素早く身を向ける。


「前方、警戒維持!挟まれるぞ!」

カワチの号令で隊が円陣状に再配置される。

Y.Gが黙って背面をカバーし、ダースは手早く残弾数を確認する。


異形の一体が正面から跳びかかった。

マラリが即座に合図を出し、左右に分かれて射線を空ける。


ノヴァとロドリゲスの銃弾が、宙に浮かんだ敵の胸部を正確に撃ち抜いた。

黒い体液が飛び散り、異形は壁に叩きつけられて崩れ落ちる。


「仕留めたか……?」

ロドリゲスが近づきかけた、その瞬間だった。


倒れていたはずの個体の背中から、

――“何か”が、再び動き出した。


ぬるりと蠢く管のような突起。

頭部がもげたはずの胴体が、ゆっくりと立ち上がる。


「やっぱり……こいつら、生き物っていうより――」

ノヴァが呟きかけたとき、

背後のY.Gが、鋭く短く叫んだ。


「後ろ」


振り返ったマラリの視界に、T字路の右側から飛び出した第三の影が映る。

その瞬間、Y.Gのマシンガンが火を吹いた。


ズダダダダッ!


無数の弾が異形の脚部を打ち抜き、接近を阻む。

獣のような悲鳴を上げて影が跳ね退いた。


「……まずいな。囲まれたままじゃ消耗が激しすぎる」

カワチが唇を噛む。


「撤退ラインを確保します」

マラリが冷静に応じる。


その視線が、通路の右奥にある非常扉へと向いた。

古びてはいるが、わずかに灯るランプが機能を示していた。


「ダース、扉のロック解除を急いで。数秒でも持たせる!」


「了解ッ!」


ダースが端末を素早く接続し、指を踊らせる。

クロスとY.Gは扉の前に移動し、盾となって援護を行う。


「Fire in the hole!」


カワチが叫ぶと同時に、手にした手榴弾の安全ピンを抜いた。

床を滑るようにして投げ込まれたそれは、元きた通路の暗がりへ転がっていく。


「下がれッ!」

カワチが即座に叫び、全員が身を低くする。

次の瞬間――


――ドゴォン!!


轟音とともに爆風が通路を吹き抜け、粉塵と破片が天井を揺らした。

巻き上がる煙の中で、異形の断末魔のような声が反響する。


「一体は吹き飛んだか!」

ロドリゲスが叫ぶが、油断はない。

煙の向こうで、まだ影が蠢いている。


後衛のトレスが叫ぶ。


「後ろ、また来るぞッ!!」


ロドリゲスとガルシアが残弾を打ち尽くし、マガジンを交換する。

火花と血飛沫が飛び交う中、ダースの指が最後のコマンドを打ち込む。


「開いた!」


機械音とともに、扉が重たくスライドを始める。


「全員、退避ッ!」


マラリの号令で、部隊は一斉に扉の向こうへと駆け込んだ。


背後から追いすがる異形の爪が、ウエンナーの背中をかすめる。

その身体をガルシアが支え、ノヴァが素早く閂を叩いた。


ゴォン……ッ!!


扉が閉まる直前、Y.Gがマシンガンを逆手に構え、最後の火線を放った。

弾丸が異形の一体を貫き、鋭い悲鳴が扉の向こうにこだまする。


静寂。


酸素と汗の匂いが満ちた閉鎖空間で、マラリ小隊はしばし立ち尽くした。


「……全員、無事か」


マラリの声に、それぞれが小さく頷いた。

だが、キムの姿だけが、そこにはなかった。


マラリは目を伏せた。

「……た、助かった」


沈黙が小隊を包む。


ゴリ……ギュゥ……ギギ……。

扉の向こうでは、異形の呻きが今も続いている。

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