CERES07-AAR-03β オコナーの告白

オコナーの瞳は乾いて赤く、長い緊張と恐怖を物語っていた。

彼女はよろめきながらコンテナの影から出てくると、壁際に背を預けて深く息を吐いた。


「……あなたたち、外部から来た部隊なのね。ようやく……救援が来たのね」

声は掠れていたが、その響きには確かな安堵があった。


マラリが一歩近づき、慎重に問いかける。

「どれくらい、この区画で生き延びていたんですか」


オコナーは乾いた唇を指で押さえ、少し考えるように目を伏せた。

「……もう一週間近くになるわ。最初は仲間と一緒に隠れていたけど、戦闘で次々と倒れて……」


「他に生存者は?」


オコナーはゆっくり首を振った。

「私が知る限りでは……もう、誰も。皆、戦って……あるいは、地下に降りていったきり戻らなかった。タチバナ通信兵も……最後に見たのは、彼女が地下へ向かう姿だった」


そこで彼女は唇を噛みしめ、続けた。

「シド伍長も……タチバナと一緒に行ったはず。二人とも、戻らなかった」


ダースが端末を閉じながら言った。

「タチバナ通信兵の手記には……こう記されています。『第6小隊、壊滅。ヴァシレフ司令官と実験体を地下に封じ、施設を封鎖。地上部隊は通信妨害を維持しつつ外部拡散を阻止――地下には危険が残っている』」


マラリは静かに頷き、オコナーに視線を向ける。

「……その“実験体”とは何ですか」


「“実験体”なんて呼び方は間違ってる。あれは……寄生体、この惑星のものよ。地下深くに眠っていたものを、彼らは“兵器利用できる”と信じて掘り起こした。私は調査チームの一人として発掘現場に立ち会っていたの。けれど……あれは目覚めてしまった」


ノヴァが一歩前に出た。

「……その“もの”は、完全に自律していたのか。研究員が制御できる余地はあった?」


「制御……?」エッサーマンが眉をひそめる。


オコナーはかすかに首を振った。

「いいえ。殻を破った瞬間から、本能のままに襲いかかってきた。防衛隊が火器で応戦したけれど、完全に止めることはできなかった」


ノヴァは視線を逸らさずに続ける。

「外見を。具体的に説明できるか」


オコナーは息を詰まらせ、かろうじて答えた。

「最初は……ゼリー状の塊だった。透き通る膜の中で黒い影が蠢いていて、触れた瞬間に皮膚へ染み込むように入り込むの。血肉を伝って広がり、宿主を内側から乗っ取っていく……」


カワチが低く呻いた。

「……だから“寄生体”か」


オコナーは震える声で続けた。

「……腕を侵された仲間がいたわ。最初は皮膚の色が黒ずんで硬くなった程度だった。けれど数時間も経つと、筋肉が異常に膨れ上がって、骨が軋む音を立てながら形を変えていった。その腕で壁を叩き割り、仲間を吹き飛ばすほどの力を振るい出したの。もう、止めるしかなかった」


だがノヴァは表情を崩さず、さらに問う。

「司令官はなぜ地下に残った?」


「……支配できると信じていたからよ。あれを兵器にできると。研究員の一部を連れて、あえて閉ざされた地下に残ったの」


隊員たちの間に、短い沈黙が走った。

ヴァシレフが選んだ狂気の選択肢――その余波はいまも地下に渦巻いている。


クロスは低く鋭い声を放った。

「……ここで引き返すわけにはいかない。防衛隊は命を賭けて地下を封じたんだ。私たちがその意志を継がなければ、すべてが無駄になる」


ノヴァは無言でその横顔を見つめ、わずかに頷く。


対してカワチは一歩前に出て、強い調子で返した。

「理想論は結構だが、現実を見ろ。俺たちは一小隊だぞ。敵の正体も規模も分からない。いま地下に突っ込めば……全滅するのがオチだ。報告を持ち帰り、艦隊規模で殲滅する方が勝算はある」


隊内に重苦しい沈黙が落ちた。

クロスは揺るぎない眼差しでマラリを見据え、カワチは苛立ちを隠さず腕を組む。


ノヴァはあえて口を挟まず、クロスの主張を裏で支えるように静かに構えていた。

隊員たちの視線は、最終的な判断を下すべきマラリに集中する。


マラリは息を詰め、指先にかいた汗を無意識に拭った。

この選択一つで、小隊の命運が決まる。



▶ CERES07-AAR-01β:強行突入



▶ CERES07-AAR-01γ:戦術的撤退

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The Space Platoon カワチ軍曹 @AAR-SGT-KAWACHI

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