CERES07-AAR-03 沈黙のコロニー
艦内放送が低く唸り、母艦〈アヴァロン〉の格納ベイに停泊した突撃艇のエンジンが静かに始動した。整備クレーンが軌条を滑り、重い金属音と油の匂いが空気に満ちる。
カワチ軍曹は最後の装備チェックを終え、隊員たちがそれぞれのシートに固定される様子を目で追った。
「ケレス7の外周、座標D-14に着陸予定です」
パイロットの冷静な声が艇内に響く。
マラリ少尉は座席から半身を起こし、視線をカワチに送った。
「安全地帯の確保を最優先とします。コロニーの現状確認後、内部調査に移行しましょう」
「了解」
カワチは短く返事し、端末に進行ルートを入力する。薄く整った眉が揺らぐことなく、任務全体を見据えていた。
その後方では、Y.G伍長が無言で愛用のライフルを分解し、スライドを慎重に確認している。隣のダース兵長はポータブル端末に複数のケーブルを繋ぎ、降下後のセンサー系統を再確認していた。
「降下開始まで、あと90秒!」
操縦席からの声に、艇内の空気が一層引き締まる。
突撃艇は固定アームを離れ、〈アヴァロン〉の重力区画を抜けると静かに前進を始めた。視界に広がるのは、赤褐色の大地と廃墟のような建造物群。
つい昨日――約18時間前まで、ここから定期的に通信が送られてきていたはずだ。だが今は、わずかな風と砂塵以外に動きはない。崩れ落ちたハビタット、停止したソーラーパネル、外壁を失った居住モジュール。全てが急速に死んだ文明を物語っていた。
「……嫌な沈黙ですね」
医療キットを抱えたウエンナーが、ヘルメット越しに低く呟く。
ガルシアが短く頷いたが、その視線はどこか落ち着かない。
着陸態勢に入った突撃艇は、荒廃した平地をゆっくりと接地した。油圧音とともにハッチが開き、乾いた砂埃が一気に吹き込む。
「全員、展開準備!」
カワチの声が響き、隊員たちは順に降下していく。エッサーマンはスキャナーを掲げ、地形と熱源反応を走査。ロドリゲスは爆薬ケースを肩に担ぎ、ナカムラと無言で周囲を確認していた。
最後に降りたマラリは、足元の赤土を踏みしめ、周囲を見渡した。
「……居住者の姿は見えません」
エッサーマンの報告が無線に乗る。
「反応なし。生存者ゼロ」
ウエンナーが簡潔に補足した。
マラリは小さく息を吐くと、部隊に指示を飛ばした。
「これより、二手に分かれて周辺を調査してください。遺体や記録媒体など、発見物は回収を。無理は禁物です。15分後、ここに再集合とします」
各員が頷き、銃を構えて散開する。風が吹き抜ける音だけが耳に残る。その風は、ほんの一日前まで人の息遣いがあった場所とは思えないほど冷たく乾いていた。
そして、彼らはまだ知らなかった。
この沈黙の奥に、説明のつかない痕跡が潜んでいることを――。
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