CERES07-AAR-04 外縁の探索
赤褐色の空が、ゆっくりと薄闇に沈み始めていた。
マラリ小隊は、荒廃したコロニー外縁をそれぞれの持ち場で探索している。
端末の時刻は、再集合予定の15分まであと数分を示していた。
崩れた居住モジュールの影を抜けると、薄く雪のような粒子が空中を漂っていた。
それは砂埃ではなく、建材が風化して粉状になったものらしく、懐中ライトの光を受けて静かにきらめいている。
エッサーマンが思わず鼻を覆いながら、足を止めた。
「……これ、呼吸器に入れたら肺が死ぬな」
「文句よりフィルター交換だ。ウエンナー、そっちの通路を確認しろ」
カワチの指示に、ウエンナーが無言で頷き、視線を奥へ送る。
「……人の気配がまったくない。それに、物音も不自然なくらいにしない。」
その言葉と同時に、遠くで金属をこじ開ける音が響いた。
ナカムラが倒壊した居住モジュールの内部から、ほこりを被った古い端末を引きずり出した。
床一面に散らばる破片を踏み越えながら、慎重にケーブルを外す。
画面は割れ、バッテリーは干上がっていたが、データ保存部は無事かもしれない。
「後で解析班に回す価値はありそうだな」
そう呟き、防水ケースに収める。
別の通路では、ロドリゲスが金属製のロッカーをこじ開けていた。
中には破損した防護服と、古びた工具が数点。
爆発物の匂いはない。肩越しにこちらを見て、無言で首を振る。
周囲には、吹き込んだ砂埃が薄く堆積しており、何年も放置された倉庫のような匂いが漂っていた。
エッサーマンは、半ば崩れた通路でスキャナーを動かしながら歩く。
金属壁の奥からかすかな反応を拾ったが、機械の誤検知かもしれない。
一度足を止め、首をかしげながら数値を見直すも、やがて小さく肩をすくめて記録だけ残した。
カワチは腕時計型端末を一瞥し、通信チャンネルを開く。
「全員、着陸地点に戻れ。集合だ」
やがて隊員たちが次々と戻り、発見物を報告していく。
有力な生存反応はなし。設備の多くは電源を失い、再稼働の見込みは薄い。
それでも、データ片や物資残骸はいくつか確保できた。
「まずはここにベースキャンプを設置する」
カワチの指示で、簡易防壁とセンサーが組み立てられ、赤土の地面に固定されていく。
エネルギーパックの低い唸りとともに、仮設照明が順番に点灯した。
照明に照らされた赤土が鈍く反射し、長く伸びた影が廃墟の奥へと飲み込まれていく。
クロスはその闇の一点で目を止めた。
眉をわずかに寄せ、視線を細める。
ほんの数秒――まるで何かの形を見極めようとするかのように凝視していたが、やがて何事もなかったかのように顔を戻し、黙って装備の点検を再開した。
やがて日は完全に落ち、ケレス7の夜が始まった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます