第13話

「抱きしめていいですか?」

私は迷いも躊躇いもなく言った。


「だっ……? え? 抱きっ……えっ?」

あからさまに動揺している柳さん。その狼狽えた様子が、なんだかかわいい。


「柳さん酔って私に抱きついてきたから……そのお返しで!」

私はできるだけかわいく言ったつもり。


「あ、ああ……たしか、に……?」

柳さんは混乱している。


考える隙なんか与えない。

私は座っている柳さんの背後から首にやさしく腕を回す。


目を閉じて大きく息を吸う。

柳さんの体温。


――好き。


鼓動が早い。

柳さんの顔のすぐ横に私の顔がある。

近い。

じんわりとしたあたたかい熱が、触れている私の腕から全身にまで広がっている気がする。


私は今、好きな人に触れている――。


意識するとたまらない。

私は腕にぎゅっと、力を込めた。

私の"好き"が伝わればいいのに、なんて思いながら。


柳さんは私のことを長い間抱いていたんだから私だって同じくらい抱きしめたい。

でも私の腕に埋もれている柳さんの耳があまりにも真っ赤だったから、そろそろ開放してあげようかな。


「あったかい」

柳さんがそんなことを言わなければ、腕を離すつもりだった。

それは、それって、私から抱きしめられるのは心地いいと言っているようなものじゃん。


だから――

私は衝動的に真っ赤になった柳さんの耳を咥えた。


「ちょっ!?」

柳さんの声が一段高く跳ねる。

びくりと身体が揺れたのが腕越しに伝わる。


そういう反応をされると、もっとしたくなる。

私は耳を咥えたまま、無意識に舌で舐めようとして――


流石に辞めた。

これは、ダメだ。

引き返せるのはここまでだ。

これ以上は、ダメだ。


ちゅっ、と名残り惜しく耳に口付けをする。

私は腕を解いて柳さんを解放する。


「……」

背中を向いている柳さんの椅子をくるりと回して向かい合わせる。


……目を合わせてくれない。

やりすぎちゃったかな。

胸の奥がひやりとする。


「ごめんなさい。イタズラしすぎましたか?」

私は不安になって柳さんの顔を覗き込む。


「こんなこと……されたら……」

声が震えている。やっぱり怒ってる?


「こんなことされたら、また……仕事が手につかない」

やっと柳さんが私を見た。

泣き出しそうな顔で。


仕事が手につかない――それって。

期待してもいい言葉なの?

真意を確かめたくて、思わず口を開く。


「それって、私のこと好――」


言いかけた私の唇に、柳さんは思いっきりキスをした。


……え?

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