第11話
柳さんが言っていることは、つまりこうだ。
――私のことを考えすぎていて、仕事が手につかない。
それって。
「私のこと、めっちゃ好きですよね!?」
嬉しくて、思わず口から出た。
「なっ!?」
柳さんは目を丸くして固まる。
……初めて見る顔だ。
「あのとき私を抱きしめてくれたのって、無意識だったんですか?」
「えっと……気付いたら抱きしめてて。ほんと、そんなつもりは全然なくって……」
柳さんは困ったように言葉を濁す。
“そんなつもり”がどんなつもりなのかはとても詳しく聞きたかったけど、今はそんな場合ではない。
「じゃあ……私を好きって自覚がなくて、そんなに悩んでたってことですか?」
私はもう、悩みの正体が分かってスッキリしていた。
「す、好きとか……そういうのでは……」
柳さんは、今にも泣き出しそうな顔で私を見ている。
かわいい。
許されるなら私だって抱きしめたい。
けれど、この人はまだ自分の感情に名前をつけられていない。
今無理に私が柳さんの感情に名前をつけてしまっては意味がない。
だって今はっきりさせたところで、柳さんはその気持ちから逃げるだけのような気がしたから。
――つまり、私も臆病なんだ。
「好きってことじゃないですか!」
わざと明るい声を出す。
「仕事の後輩として好き、ですよね? そんなに私を思ってくれていたなんて!」
これは本音じゃない。
でも、私は自分の気持ちよりも、柳さんとの関係の方が大事だった。
「そんなに悩まなくて大丈夫ですよ! 私も柳さんのこと好きですから! 午後も仕事、一緒にがんばりましょ!」
こんな“好き”なら、簡単に言える。
嘘じゃない。嘘じゃないけど。
「そ、そうだよね。ありがとう。……嬉しい」
柳さんはそう言った。
その顔が笑っていたのか泣いていたのか、私には分からなかった。
だって、目を合わせられなかったから。
私は間違っていない、と思った。
柳さんが安心して午後の仕事に戻れる空気を作れたと信じたい。
私の感情とか、今更気にすることではないんだ。
この胸の痛みも。
柳さんのことが一番、大事、だから。
そして私はようやく、自覚する。
――柳さんのことが好きだ、と。
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