第10話

お昼休みは一時間。

私は柳さんを誘って、近所のカフェでランチをしていた。


柳さんの額にはうっすら汗が見える。

「柳さんの考えが分からない」と思っている私でも、今の柳さんが焦っているのはすぐに分かった。


「大丈夫、ですか?」

私は柳さんの顔をのぞき込むように声をかける。


「はい……」

でも、柳さんはさっきから目を合わせてくれない。


「相談乗りますよ! ほら、居酒屋のときみたいにいっぱい話してくださいよ」

努めて明るく言ってみる。

心配だった。

あんなに仕事が好きな柳さんが、その仕事でつまずいたらどうなってしまうんだろう。


「……」

長い沈黙。


私は柳さんの悩みの理由を知りたかった。

なんでもいい、今はその口を開いてほしい。


「私……が原因ですか?」

気持ちの距離が遠い気がして、不安が口をついた。


「えっと、田中さんのせいじゃ……ただ、私自身の問題で」

やっと柳さんが口を開く。


でも、その言い方だと――やっぱり私も関係してそうなんだけど。


「どういうことですか? 思ってることは言ってください」

思わず強い口調になる。


「それは……」


あーもう!

何を隠そうとしているのか分かんない!

私だって柳さんに伝わる言葉で話したいのに。


「あの! 私は、仕事を頑張っている柳さんが好きですよ!」


――言ってしまった。


「好き」という言葉を、こんなタイミングで使うつもりはなかった。

でも、柳さんが顔を上げて目を丸くしているから、もう止まれなかった。


「何に悩んでるか分からないですけど!

このまま1人でモヤモヤしていたら、また同じミスを繰り返しちゃいませんか!?

柳さんのしたいことって、もう一回ミスをすることなんですか!?」


一気に言い切った。

柳さんの力になりたくて、強く言ってしまった。


柳さんは考え込んでから、そっと口を開いた。


「……分からないんです。田中さんに対しての感情が」


「えっ?」

思ってもみなかった言葉に、思わず聞き返してしまう。


「一緒にご飯に行って、抱きしめてしまって、デートして、手を繋いで……楽しくて、かわいくて、もっと触れたくて、もっと知りたくて。でも考え始めたら、仕事が手につかなくなってしまって」


捲し立てる柳さんの言葉に、私はただただ驚いていた。


……なんか、急に全部しゃべるじゃん!?


「って、あのハグ……記憶にあったんですか!?」

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