第4話

柳さんの膝の上で私も一緒に寝ていた……

ということはなく、その後どうにか起こして布団に寝かせた。


はぁ。まったく、この人ってこんなに無防備で大丈夫なの?


来客用の布団はあるけど、もう疲れて出す気がしない。

手早くシャワーを浴びて、私は柳さんが寝ている――私の布団の半分を分けてもらうことにした。

……って、元々私の布団なんだから、侵入者は柳さんのほうなんだけど。


寝息を立てている顔を、じっくり見る。

メガネ……外してあげるか。


そっと両手を伸ばし、耳を覆うようにしてフレームの端をつまむ。

指先が柳さんの耳に触れた瞬間――熱い。

「……」

熟睡しているらしい。


ゆっくりとメガネを外し、ベッドのフレームに置く。


七歳年上、なんだよね。


メガネを外した寝顔は思った以上に幼くて、普段は意識しない年齢差が急に迫ってくる。

切れ長の目、高い鼻筋、きゅっと結ばれた口元。

……整ってるなぁ。


視線が口元に落ちる。

「……キス、とか、したことあるのかな」

自分のつぶやきを理解するまで、数秒かかった。


これはきっと――仕事に一直線な柳さんの、ほんの少しだけ“内側”を見た気になっているだけ。

職場では、完璧な姿しか見せない人。

酔いつぶれて後輩の家で寝てるなんて、同僚が見たら腰を抜かすだろう。


私だけが知っている、この姿。

それが、ちょっとした優越感になって、胸の奥をくすぐる。

……危ない感情を生みそうな気がする。


第一、柳さんが私をどう思ってるかなんて――全然わかんない。

というか、この人からの恋愛感情なんて全く想像できない。

どうせ「好きなところ」といえば、前に言っていた“見積書を作るのが早い”とか、そういう仕事のことだけだろうし。

そんな人が、なんで私の家にいるのか――不思議。


……信用、って受け取っていいのかな。

少なくとも今のこの状況を考えると、嫌われてはいないんだろうけど。


本当に――よく分からない人だ。


ぐるぐる考えているうちに、私もいつの間にか目を閉じていた。

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