第3話
「お疲れ様です。今夜、飲みに行きませんか?」
お昼休憩中、柳さんからLINEが届いた。
今日は金曜日。気兼ねなく飲める日。
迷うことなく承諾する。
この前、一緒に居酒屋に行ってからもう一週間。
その間、別の男何人かと飲んだけど――つまらなかった。
下心しかない、薄っぺらい笑顔ばかり。
柳さんの、あの邪のない笑顔とは比べものにならない。
……って、これじゃまるで私のほうが柳さんに――。
いやいや、さすがにそれはない。
そう思いながら、午後はあっという間に過ぎた。
※※※
気づけば、酔ってまともに歩けない柳さんを、私が介抱していた。
……何でこんなことになってるんだっけ?
今日の柳さんは、やけにペースが早かった。
明日が休みだから安心したのか――いや、理由なんてどうでもいい。
私、柳さんの家を知らないんだけど。
本人は楽しそうに独り言をぶつぶつ。
こっちの話は聞いてない。
……仕方なく、私の家に連れて帰ることにした。
なんで私がこんなことを。
家に着き、柳さんをソファーに座らせる。
腰に手を回し、そのままゆっくりと体を預けるように座らせ――
……その瞬間。
不意に、強く抱きしめられた。
思わずバランスを崩して、柳さんの膝の上に座る形になってしまう。
近い。
体温と、息づかいと、柔らかな香り。
「……ありがとう。運んでくれて」
耳元で甘く響く声。
くすぐったくて、鼓動が速くなる。
――え、これ、“そういう”流れ?
男性には簡単に身体を許してきた私でも、柳さんとは想像できない。
なのに、腕の力はさらに強まる。
包まれて、いい匂いがして――
……人間らしい、かも。
いつもは仕事AIマシーンみたいなのに。
そのとき、ふと居酒屋での会話が蘇った。
『柳さんって、初恋はいつなんですか?』
仕事の話にならないよう、私はどうにか誘導した。
『いや、そういう話は苦手で』
柳さんは本当に困った顔をして――ちょっと、かわいいと思った。
『教えてくださいよ。女性が好きなんですよね?』
「……」
伏せたまま、ビールを一気に流し込む柳さん。
……もしかして、あれで無理させちゃった?
だから今日、いつもよりペースが早かったのかも。
これは私にも非があるかも、と思いつつ
こんなになるまで飲むなんて普段の柳さんからは想像できないな、と可笑しくなる。
お酒を飲んだからか、抱きしめられている柳さんの身体は熱を持っている。
あたたかいぬくもりに包まれている安心感が半分と職場の先輩といけないことをしているような罪悪感が半分。
どうしたものかと考えていたら――
柳さんは、私を抱きしめたまま寝た。
……え、寝たの?
この状況で!?
意味がわからない。
私のこと抱きしめといて、放置?
ひどい。
……でも、膝の上からどかなかったのは私のほう。
その心地よさに、つい身体を預けてしまっていた。
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