第5話
モゾモゾ……と、隣で動く気配がした。
まぶたを開けると、視界いっぱいに――美人なお姉さんの困り果てた顔。
……って、それ仕事中によく見る見知った顔じゃん。
おぼろげに、昨日の記憶が浮かび上がってくる。
ああ、柳さんと一緒に居酒屋に行って……。
「た、田中さん。あの……」
ものすごーく気まずそうに、柳さんが声をかけてくる。
「おはようございます」
まだ半分寝ぼけたまま、とりあえず挨拶をする。
「あの、昨日のこと……何か覚えてますか? 私、記憶がなくって……」
眉を八の字にして、おそるおそる問いかけてくるその顔。
「大丈夫ですよ、私たちは何も――」
そう言いかけて、ふと思いつく。
……少し泳がせてみるのも面白いかもしれない。
「いえ。昨日はすっごく楽しかったです。柳さんが“本当に女性が好き”って、実感できました」
「……っ!」
ガバッ、と柳さんが布団を持ち上げて顔を隠す。
でも耳まで真っ赤なの、隠せてませんよ、先輩。
今、何を考えているんですか?
「えっと……えっと……」
しどろもどろになる柳さんなんて、初めて見た。
――ちょっと、かわいすぎるかも。
「なーんて、嘘ですよ。何も無かったです、何も」
さすがに勘違いされたままじゃ不服なので訂正を。
……けど、そのあからさまにホッとした顔はどういうことですか?
まるで私とするのが嫌みたいじゃないですか。
……いや、別にしたいわけじゃないけど!
※※※
柳さんがシャワーを浴びた後、二人で朝食をとった。
「本当にごめんなさい。記憶をなくすまで飲んだのは久しぶりで……ご迷惑をおかけして申し訳ございません。」
食後、柳さんが私に頭を下げる。
いや、その謝り方、完全にクライアントへのやつですよね?
真面目すぎて、ちょっと笑ってしまう。
実際のところ、私はあまり怒ってはいない。
だって――いつも完璧な柳さんが、あんなに動揺してた姿を見られたんだし。
……でも、このまま水に流すつもりはない。
「今日、私とデートしてくれたら許しますよ」
にこっと笑って言うと、柳さんが頭を上げて私を見つめる。
――さて、どう出ますか、先輩。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます