天国のあとに残った灰

第35話

どんな環境においても、子供のうちは、金や地位が人の立場を決めることはない。他者を屈服させる唯一のもの――それは 力 だ。

「おい！早くジュース買ってこいよ！」

中学に入ったばかりの子供の甲高い、横暴な声が響き渡る。彼は友達の中で足を組み、楽しげに笑う。その周囲の空気は、暴力と権力乱用の淀んだエネルギーで満ちていた。

その前に立つのは、細身で長い黒髪が顔の半分を覆う、青白い少年。目を伏せ、震える手をぎゅっと握るしかできない。彼には何もできず、ただ沈黙で頷き、影のように背を向けるしかなかった。

彼の人生は二文字で表せる――地獄。

力もなく、権力ある家族もなく、彼は誰も覚えていない名前にすぎず、すべてを耐える影に過ぎなかった。日々、拳や蹴り、軽蔑の視線にさらされる。小説の中だけに存在するような苛めが、現実に生々しくあった――道化のように扱われ、雑用を強要され、トイレで水をかけられ、机にゴミを押し込まれ、食べ物を頭からぶっかけられても、誰も声を上げなかった。

怒りが湧く。もちろん、怒る。

反抗したい。どうしても。

しかし、握りしめた手の中で、恐怖がすべてを押し潰す。

何もできない。

孤独で、弱く、沈黙する。周囲の世界は、まるで彼をどん底に叩き落とすためだけに作られているかのようだった。

ある日、朽ち果てた学校の裏手で、彼は彼女に出会った。

一本の大きな木の下で、本を読む美しい少女。長い髪が陽光を受けて輝く。彼女は声をかけ、見下すことも恐れることもなかった。彼がいじめられ、弱く、目立たない存在でも、彼女は微笑む。二人は一緒に遊び始め――その瞬間、長年の孤独の後、彼は初めて 人間であること を感じた。

穏やかな日々が過ぎる。監視され、からかわれても、彼はもう気にしなかった。恐怖は残るが、彼女のそばにいると笑うことができる。彼女は、暗く冷たい彼の人生で唯一の光だった。

しかし、支配者は獲物を簡単に手放さない。

いじめっ子は苛立つ。彼はゴミを机に押し込むが、少年はただ見て捨てる。水をかけられても、静かに拭き取り、彼女に笑いかける。傷つかない被害者ほど恐ろしいものはない。

そして、標的は変わった。

彼は噂を広め、派閥を作り、少女を次の標的にした。廊下に悪口が飛び交い、嫉妬と敵意の視線が彼女を包む。汚水、ゴミ、破れた本…すべて、かつて彼に手を差し伸べた唯一の少女に降りかかる。

彼女は教師に訴えようとした。しかし、金が王であり、道徳が売られる環境では、誰も守ってくれない。彼女は孤立し、服を裂かれ、水をかけられ、授業に行かずにトイレで泣かされる。

その日、授業を無視して少年はトイレに駆けつけ、扉を開けると、彼女がそこに座っていた。震え、ずぶ濡れで、絶望に沈んでいる。彼は抱きしめ、囁かれる噂など気にせず、少女は泣き崩れ、少年は歯を食いしばった。

数日後、彼女は登校しなくなる。

いじめっ子は後ろで得意げに、自分たちが彼女の髪を引き裂いたこと、教師が間に合わなければ剃髪するつもりだったことを大声で話す。少年は立ち上がり、飛びかかろうとした。しかし、あの日の約束――「自分はあいつらと同じにはならない」…それが彼を止めた。

少年は彼女の家を訪ね、小さな贈り物を手にする。扉が開くと、母親は泣いていた――いじめっ子の父親の工場を失ったためだ。彼女の父はすでに亡くなっている。今、彼女たちには何も残されていなかった。

彼女が出てくる。顔はあざだらけ、髪は切り揃えられ、瞳は生気を失っている。彼女は泣き、言った。

「ごめんなさい…でも、もう友達でいられないの。私と母の生活は…ここで終わりなの。」

扉が閉まる。

その瞬間、彼の中の何かが死んだ。

その日以来、少年は学校から姿を消した。しかし、逃げるためではなかった。

彼は自ら鍛え始める。古いマットレスをベッド下に敷き、サンドバッグ代わりにする。粗末な部屋で、人体の図を壁に描き、図書館で密かにダウンロードした武術の映像や書籍から、パンチ、構え、関節技、回避法を研究する。

毎日、自分の限界を破る。

毎朝、肘が裂けるまで腕立て伏せをする。毎晩、壁を殴り、関節が赤く腫れるまで打ち込む。血と汗と涙が混ざり合い、誰も知らない部屋に落ちる。雨の夜には稲妻の下で走り、叫ぶ。怒りが日々、時間ごとに彼を焼き尽くす。

その日から、彼は死んだ――そして一匹の悪魔が育った。

二年の時が過ぎる。いじめっ子たちはまだのうのうと生き、新たな獲物を探している。

そして――高等学院の入学式で、彼らは再び彼と出会う。

校門の前に、背が高く筋肉質で、乱れた髪が冷たい目を隠す少年が立っている。灰色の空の下、烏たちが混乱しながら飛び去る。

生徒たちは笑いながら、見慣れた顔を見つけて叫ぶ。「おお！昔の弱虫だ！」

しかし彼らは気づかない――何かが変わったことを。

警備員が近づく。「遅刻だ、行け。」――声が届く前に、雷鳴のような一撃が放たれる。

ドゴォン！！

鉄製の門は紙のように粉々に破壊される。

校庭全体が静寂に包まれる。そして叫び声、骨が折れる音、血が赤い花のように飛び散る。彼は一人ひとりに拳を叩き込み、頭を潰し、頭蓋骨を砕く。風が吠え、悪魔の復活を喜ぶかのように。

超能力も、特別な力もない。あるのは、憎しみに磨かれた限界の肉体だけ。

遠く離れた場所で、あの少女――今は髪を伸ばし、新しい環境で平穏に暮らしている――の手元に一通の手紙があった。

「ごめん…約束を守れなくて。

僕はもう、あいつらと同じになってしまった。」

一階。二階。死体が至る所に散乱し、血が手すりから廊下へと雨のように滴る。腐敗臭が立ち込める。

廃墟の中、彼は静かに座っていた――壊滅したリーダーの遺体の前に。上半身は拳で粉々にされ、肉塊と化していた。

警備隊が駆けつけ、隊長は言葉を失った。

「お前…名前は？どうしてまだ浄化前の年齢の子がこんなことを…！？」

彼は顔を上げ、鋼のように冷たい瞳で答えた。

「キングだ。」

こうして彼は、まるで凶悪犯罪者のように捕らえられ、一時拘留されることになる。子供たちの親たちは、命を落とした仲間のために駆けつけ、自分の子供を目にしようとした。しかし、目の前の光景はあまりにも凄惨で、立ちすくむしかなかった。

歪んだ死体、砕けた頭蓋、床に染みた血…悪夢の残骸のようだった。誰も信じられず、誰も許せなかった。

彼らは泣かず、懇願せず、ただ憤怒した。

密かに結成された一団――その目的はただ一つ、キングへの復讐。

拘留先から解放された彼を待っていたのは、壊れた人生だけだった。

倒れそうな小さな家の中で、彼の唯一の肉親、最後の支えである祖母は宙に吊るされていた。細い体は血まみれで、槍が肉を貫く――まるで残酷な生贄の儀式のようだった。血は乾き、目は開いたまま、玄関の方向をじっと見つめている…まるで帰りを待っているかのように。

その瞬間、彼の世界は崩れた。

怒りが胸中で爆発し、キングの全身が震えた。歯を食いしばり、赤く燃える瞳を光らせるが、足は地面に縫い付けられたかのように動かない。叫べず、泣けず、狂えず――ただ静かに痛みに耐えるのみ。

小さな記憶――「幸せ」と呼ばれるもの――が断片的に甦る。祖母の温かい手、焦げた貧しいご飯、悲しいときに慰めてくれたにっこり笑顔…すべてが目の前で引き裂かれる。

頬を涙が伝う。

「世界は…なぜ、僕にこんな仕打ちを…」――キングは言葉を詰まらせた。

そしてその日が来た――浄化の年齢を迎える日。

誰も彼の覚醒に驚かない。しかし、キングの覚醒は光や炎や自然の力ではない――それは 凶気、呪われた力、積み重なった憎悪が極限に達したときに顕現する力だった。

周囲の人間は一斉に結論を下す。「奴はNGになった。即刻排除せよ。」

誰も理由を問わず、恐怖と嫌悪以外は考えない。

そして、権力者の常として、裕福な家族たちは金で学園評議会のメンバーを買収し、影で排除計画を練る――完璧に、痕跡も残さず、彼に反撃の機会を与えずに。

排除の前夜。

月のない黒い空、四方から吹き付ける冷たい風。キングは燃え盛る憎悪の瞳で静かに歩く。周囲の凶気はうねり、千の無念な魂の叫びのように轟く。

彼は見つけた――祖母に手を下した連中を。

そして…虐殺が始まる。静寂の闇の中で、骨が砕け、血が飛び、悲鳴が街中に響き渡る。逃げられる者も、懇願できる者もいない。

生き残る者は一人もいない。

精鋭警備隊――学園の高度訓練を受けた者たちでさえ、キングの前には為す術がなかった。彼はMMAの熟練技術を持つだけでなく、憎悪の化身として凶暴な力を内に宿していた。

拳は雷の如く、胸を貫き、鎧を破壊する。キングの体は赤い凶気で包まれ、歩を進めるたびに死刑宣告の如く。

混乱の中、戦闘は続く。最終的に、学園の上級警備隊――Class上級に属する者たちが現れて、初めて彼を止めることができた。

死体の山の中にひざまずくキング。両手を握りしめ、冷たい瞳で文明から連れ出される。

彼の名前はすべてのシステムから抹消され、行き場も信じる相手もなくなった。「生ける災厄」と烙印を押された人間となった。

だが――すべてが終わったわけではない。

ある日、学園の著名な女性士官・ヒトミが、混沌の地を遠征中にキングと出会う。死の領域を生き抜いた彼は、憎悪に燃える瞳を持っていたが、同時に屈しない炎を宿していた。

彼女はNGを見るのではなく、戦士を見た。

そして手を差し伸べた。

赦すためではない。やり直すために。

その日から――キングは再び世界に現れる。もはや被害者でも、犯罪者でもない。

人の形をした悪魔――破滅と救済の境界に立つ者として。