蜃気楼を駆ける

花恋亡

蓄熱商事株式会社購買部

 あーしはセーミっていうのね。

あーたももしかしたらあーしのことを知ってるかもしれないわね。あーたにとっては夏ってどうなのかしらん。それぞれ思うところもあると思うのね。

あーしにとっては文字通り命懸けなのよ。

あーたは人間界ってところに住んでるのだと思うのね。そんなあーた達が知らないけれど確かに存在してる世界があるのだわ。



ナンカタイヨウニチカインジャネ界。

この世界の住人はあーた達と見た目はほぼ変わらないのよ。唯一の違いと言ったら頭に生える角くらいなのかしらね。人それぞれ個性的な角をしてるのよ。そうね、あーたに分かるように例えるならある人はヒツージ、ある人はヤーギ、ある人はバイソーンって感じなのよ。

この世界の特徴はとにかく暑いことなのさ。か弱いあーたじゃ生きていけないかもかしらん。



ニホンアタリナンジャネ国。

島国で独自の文化が発展した国なのよ。



ナンカメッチャアチクネ都。

その国の首都なのよ。



ナンカチュウシンダヨネ区。

都庁所在地なのね。



そこにとある会社があるんだわさ。



蓄熱商事株式会社。

熱エネルギーの古参企業なのよ。



ここに勤める一人の女の子がこの話しの主人公なのよね。

いわゆるOLルックて言うのかしらね。白いブラウスに水色のスカート姿なのよ。髪は白くて毛先にいくほど青み掛かっているのね。長い髪は後ろで一つに纏めることが多いのさ。あーた達はポニーテールなんて言うのかしらね。この子の角はおでこからニョッキっと飛び出してる二本角なのよ。色は濃い茶色でそんなに長くはないのだわさ。そうね、あーし二匹分くらいの長さなのかしらん。身長はそんなに高くないのよ。ヒールを履いてても足音はカツカツじゃないのよ。しょぼしょぼだわさ。



この子があーしから見てもとっても残念なのよね。



ほら部長に怒鳴られてるのだわさ。



「おいっザンネンネっまたお前だけ売り上げゼロだぞっ」


「ひぃ~え〜そんなこと言ったって仕方ないんだよ〜」


「何が仕方ないだっ」


「だって今どき蓄熱ボンベなんて売れないよ〜外気熱から直接エネルギーを取り込み出来る時代なんだよ〜」


「そうは言ったって他の社員達はちゃんと売り上げ立ててるぞ」


「それは時代に取り残された年寄り達を食い物にしてるだけなんだよ〜情弱をカモにしてるんだよ〜限られたそのイスを仲間内で取り合ってるだけなんだよ〜そんな会社に将来性はないよ〜」


「おまっウチの会社の課題を的確に言語化するなっみんな分かっとるわ」


「この会社も時代の流れに乗るべきだよ〜時代遅れの蓄熱ボンベなんて止めて直熱変換バッテリーを売ろうよ〜」


「ザンネンネよ、新しいことをはじめるにしたって資金がいるんだよ。その資金を稼いで来るのがお前の仕事だろう」


「部長はあー言えばこー言うんだよ〜」


「それにお前知ってるぞ。仕事サボって公園のハトッポーイにパンノミミミタイーをあげてただろ。外回り行きがけに見掛けて、帰社のタイミングでも見掛けたから半日はお前あんなことしてたぞ。サボりと条例違反だからな」


「えーん部長は暇人だよ〜用事のあるはずのない公園を二回も通ってるんだよ〜あわよくば休憩しようとする魂胆が見え見えだよ〜」


「おまっその場で怒らなかった俺の優しさを返してよ」


「部長は優しくなんてないよ〜いつもザンネンネを怒るんだよ〜」


「あーもうっうるさいうるさい分かったら仕事に戻れっ」



こんな調子なのよね。

この子はトテモザンネンネって名前なのよ。

そうしてぷりぷり怒ってるのはカンリショクチュウカーン部長なのさ。もうこんなやり取りは日常の光景過ぎて誰も何も思ってないのだわね。


あーたの世界だと熱エネルギーを運動エネルギーに変えてさらに電気エネルギーにしてるのね。詳しいことはあーしも知らないわよ。でもこの世界では熱エネルギーを直接使用出来る状態に変換する技術が確立されてるのよ。蓄熱商事株式会社は熱を封入したボンベの販売大手なのさ。一昔前はどの家庭にも大きな熱ボンベが設置されていたものなのよ。ただ今では直接熱エネルギーを供給する都市熱管が整備されたり、外気熱をそのまま直接熱エネルギーとして取り込める技術が開発されたものだから熱ボンベは斜陽産業なのだわさ。



ザンネンネが社食でスンドゥブチーゲを食べながら愚痴を溢しているのよ。



「あーもう部長はザンネンネのことが嫌いなんだよ〜いつもガミガミガミガミ怒るよ〜」


「ザンネンネが口答えするからだと思うわよ。はいはい言うこと黙って聞いてれば良いのに」


「黙って聞いてても売り上げはあがらないんだよ〜ドウリョウコの受け持ちさんを分けて欲しいんだよ〜」


「やーよ、あんたも言ってたじゃない限られたイスの取り合いだって。私も成績ギリギリなんだからね。あんたに分けてあげる余裕なんてないわよ」


「同期が冷たいよ〜ザンネンネの味方は居ないんだよ〜天涯孤独だよ〜」


「うーん孤立無援じゃないかな。あんた両親はおろか両祖父母もガッツリ健在じゃないの」


「そんなことは売り上げの足しにならないんだよ〜みんな都市熱管住宅に住んでるよ〜ザンネンネのアパートもだよ〜」


「まぁご時世よね」



インフラの整備が進んで最新設備の住宅が急増してるのよ。あーしが土に潜ってた頃もガタガタ工事がうるさかったものだわさ。さすがのあーしも不安で睡眠不足になったものよ。



あらザンネンネが部長に呼ばれたわね。



「ザンネンネ、お前の出張が決まったから」


「出張ってどこになんだよ〜」


「人間界のニホンってところだ」


「そんなところ知らないんだよ〜」


「安心しろ文化も言葉もほとんど変わらないらしいぞ」


「らしいぞって部長は行ったことあるんだよ」


「いやない。全然知らん。あっちなみに売り上げ立てるまで帰って来るなよ」


「そっそんななんだよ〜ご無体なんだよ〜部長はオッニなんだよ〜」


「成績ゼロのお前が悪い。商談成功させるまで無期限だから」


「えーん部長のバカ〜この学歴詐称〜メガネ〜アホ〜ハゲ〜足臭〜短足〜腰痛持ち〜脂性肌〜耳毛パーマ〜襟足伸ばし〜アクーマ〜」


「えっ実を虚でサンドイッチすればなにを言っても良いって思ってるのかな。ちょっと涙出て来た」


「オッニの目にも涙なんだよ〜」


「なんかそれは全然違う。まぁあれだ。シッシは我が子を千尋の谷に落とすって言うだろう、かわいい子には旅をさせよ的な、そうだろう」


「こんな将来性のない会社勤めの父親は嫌だよ〜定年まで保たないんだよ〜」


「あっそれウチの子に滅茶苦茶失礼だよ、分かってるのかな」


「事実なんだよ」


「わっびっくり。急な真顔は怖いよ。止めてその顔、夢に出そうだよ。とりあえず出張頑張って来い。このチケットをゲートキーパーさんに見せれば現地に繋げてくれるから」


「仕方なく行ってくるんだよぅ〜でも部長にだけはおみやげ買って来てあげないよ〜」



こんな子に出張させるなんて不安しかないのよ。しかも異世界で営業だなんてザンネンネのコミュニケーション能力じゃ相手を怒らせる未来しか見えないわさ。



しょぼくれた様子のザンネンネがとっても大きなスーツケースを引きずりながらディパーチャーゲートに着いたのよ。



「はーい次の方〜。チケット確認しますね。蓄熱商事のトテモザンネンネさんですね、確認取れました。行き先は〜え〜ニホンですか。また辺鄙な場所ですね。私もこの仕事長いですけど初めてですよ。となるとゲート開通先はですね〜ジンダイジのナンジャモンジャの木ってところですね。向こうでは両替出来ないんでもう両替はお済みですかね。ああ、なら良かった。帰りはチケットの半券を千切ると自動でゲートが開きますので、それでご帰還下さい。それでは良い旅を」



この子ったら今だにぶつくさぶつくさ文句を言いながら光るゲートへ潜っていくのね。ついた先はオテーラと似た場所ね。ザンネンネったら早速タクシーを拾って移動だなんてずいぶんとこなれてるのよ。でも行き先が「人の多い場所お願いするんだよ」じゃ運転手さんも気の毒ね。ここは、駅前ってやつかしらん。



「ゲートの場所が場所だったから心配だったけど本当にあんまり変わらないんだよ。とりあえず泊まる場所の確保をしなくちゃだよ」


「文字もちゃんと読めるんだよ。あれがホテルなんだよ」



ザンネンネったらちゃんと出来るのかしら。



「あのう泊まりたいんだよ」


「予約のお客様でしょうか」


「予約はないんだよ」


「えーですと、本日は満室となっておりまして。残念ながら当ホテルではご対応致しかねます」


「そっそんな〜だよ〜知らない土地で野宿は嫌なんだよ〜」


「えーですといくつか近隣の宿泊施設をご案内致しますので」


「なんて親切なんだよ。同業者にシッオを送るってやつなんだよ。あなたはカッミのような慈悲深さなんだよ。なむなむカッミ〜だよ」



数件同様なやり取りで断れたけれど、どうやら滞在するホテルも決まったようなのよ。



「とりあえず汗を流すよ〜。出てくるお湯がずいぶん冷たいんだよ。めいいっぱい赤いところまで回してるのにこれ以上温かくならないんだよ。ニホンはきっとエネルギー不足なんだよ。これならお仕事も上手くいく気がするんだよ〜」


「あっツノリートメント忘れたんだよ〜」


「お風呂上がりはやっぱりこれだよ〜ぱはぁっうまいよ〜」


「ビールミタイーにそっくりなんだよ」


「ようし明日から頑張るんだよ〜」



翌朝から意気込んで始めた街頭セールスも全然うまくいってない様子なのよ。駅前に居たのが知らず知らずの内に繁華街の方まで移動しちゃったわさ。



「あのう〜すみません〜熱ボンベ要りませんか〜」


「この手のひらサイズのボンベで一週間分のお家のエネルギーをまかなえるんだよ〜」


「すみません〜話し聞いて欲しいんだよ〜」


「お願いだよ〜話しだけでも聞くんだよ〜」


「誰も耳を貸してくれないんだよ。ニホンの人はみんな忙しそうなんだよ。歩く速度が速すぎるんだよ」



「あっおねーさん暇してますか」


「ザンネンネは暇じゃないんだよ。お仕事中なんだよ」


「あーそっすかー、ところで暑いんで一緒にお茶でもどうっすか」


「お仕事中だって言ってるんだよ」


「いやいやちょっとだけっすから。お茶奢りますから」


「うむ奢りなら行くんだよ」



あらあら変なのについて行って大丈夫なのかしらん。



「難しい呪文みたいな飲み物ばっかりなんだよ。お茶はどれなんだよ」


「お茶は言葉のアヤってやつっすけど。本当にお茶が飲みたいとなると、これっすかね。アールグレイアイスティーかアイスパッションティー」


「ホットが良いんだよ」


「こんなに暑いのにホットっすか。おねーさん冷え性っすか」


「ニホンは涼しいところなんだよ」


「んんん、おねーさん面白い人っすね」


「ザンネンネは真面目だよ〜ところでニホンの人はこんなに涼しいのになんでみんな薄着なんだよ」


「あーいやー涼しいかどうかは個人差っすけど、だって今は夏じゃないっすか。俺なんて暑くて仕方ないっすよ」


「きっと体が弱いんだよ〜」



ザンネンネはこの男に二時間も熱ボンベの有用性を説明したのよ。はじめはニコニコ話しを聞いていた男も後半は苦痛の表情を隠さなかったわね。結局お茶は四杯奢ってもらってたわさ。男はトイレに行くと言ったきり戻って来なかったのよ。


ザンネンネはこの日は諦めたようなのよ。



「ツノリートメントはどこにも売ってないんだよ。ただこのカツサンドってやつは絶品だよ〜ブータのお肉に似てて食べやすいんだよ」


「明日からまた頑張るんだよ〜」



ザンネンネなりに頑張っているようなのね。でもやっぱり誰も足を止めてまでザンネンネの話しを聞いてくれないのよ。



「二日間で話しを聞いてくれたのはあのお兄さんだけなんだよ〜早く元の世界に帰りたいんだよ〜」


「あのーすみません。街頭スナップ撮ってるんですけど写真撮っても大丈夫ですか。なんのコスプレされてるんですか〜角の再現度高いですねっ本物みたいですよ」


「なに言ってるんだよ角は本物なんだよ」


「おっ役作りも完璧って感じですね」


「良く分からないけど撮りたいなら撮るんだよ」


「はーいでは撮りますねー、おっ良いですねっノリノリですねっ」



ザンネンネったら要求もされてないのに代わる代わるポーズをとったりして、仕事で来てるって忘れてるのかしらね。



「やーめっちゃ良い写真いっぱい撮れましたよ。ありがとうございました。これってSNSとかにあげちゃっても大丈夫ですか」


「ん〜好きにしたら良いんだよ〜」



このやり取りから四日、ザンネンネは空振り続きなのよ。こんな調子で契約なんて取れるのかしら。



「あの〜すみません私は銭下馬議員の秘書をしてる者なのですが、あっはい吉田と申します。つかぬことをお伺い致します。もしや違う世界からお越しではありませんか」


「そうなんだよ出張なんだよ」


「その出張の内容というのは」


「熱ボンベを売らなきゃいけないんだよ〜売れないと帰れないんだよ」


「ああっやっぱりそうですか。でしたらウチの銭下馬が是非ともお話しを伺いたいとのことでして」


「どうしてザンネンネが別の世界から来たって知ってるんだよ」


「その、実はSNSで美人コスプレイヤーだと少し話題になっておりまして、そんな中その立派な角をお見かけした銭下馬がもしやとお思い私を遣わせたといった経緯で御座います」


「良く分からないけど話しを聞いてくれるならありがたいんだよ〜」



なんだか急展開なのね。とっても怪しいわ。知らない人にホイホイついて行ってしまうのはザンネンネの悪いところなのよ。いかにもな車でどこに行くのかしらん。



「わあ~凄いところなんだよ、きっとお金持ちしか来れなそうな場所だよ〜」


「我が国では料亭と言いますがそちらの世界には御座いませんかね」


「あるかもしれないけれどザンネンネは縁がなさ過ぎて知らないんだよ」


「ははは、そうですか。あっ先生、先方様をお連れ致しました」



あら、絵に描いたような狸おやじが待ち構えてるんだわさ。ザンネンネの部長とは違ってぷくぷく肥えているのよ。きっと良い物ばかり食べてるんだわね。



「やー良くお越し下さいましたねっはっはっはー。いやはや話しには聞いてましたが、まさかこの目で拝見出来る日が来るとは思いませんでしたよ。とりあえず座って懐石でも召し上がって下さいよ。それからゆっくりお話しでもしましょうはっはっはー」


「なんだか食べ方がわからないんだよ」


「はっはっはーご自由に食べて下さって大丈夫ですよ。足りなければいくらでも追加して結構ですぞ」



ザンネンネったらここぞとばかりに高級そうな食べ物を食べてるのよ。アワビなる貝類の踊り焼きを三回も食べてるんだわさ。



「げふーなんだよ。もう食べれないんだよ」


「いやーしかしまぁ本当に別の世界から、どうですか我が国は」


「ずいぶんと涼しいところなんだよ」


「涼しい、はっはっはーそうですかそうですか。涼しいですか。ところで日本にはどのようなご要件でいらしたかな」


「熱ボンベの営業なんだよ」


「熱ボンベっはっはっはーいやー話しには聞き及んでますよ。やっぱり実在しましたか」


「熱ボンベを知ってるんだよ」


「ええええそれはもちろん。そうですね、南米、中東なんかの諸外国は昔から取り引きがあると聞いてますよ」


「ザンネンネは良く知らないんだよ。でもこっちに来る前に部長が言ってたんだよ〜ナンベイアタリジャネやチュウトウアタリジャネの国は昔から異世界貿易に成功してるんだよ〜って」


「まぁそちらも管轄などがあるのでしょうな。それでどうでしょうその熱ボンベとやらの効果が確かなら私と契約してはくれませんかね」


「それは願ったり叶ったりなんだよ〜でもこれまで誰も興味を持ってくれなかったのにおじさんはどうしてなんだよ」


「その熱ボンベは太陽の熱を閉じ込めたものだそうじゃないですか。ですからそれを開放したらどうなりますかね」


「とっても暑くなるんだよ〜」


「ええでしょうでしょう。私はこの国の気温が上がれば良いと思ってましてな」


「なるほど分かったんだよ〜ニホンは涼し過ぎるからなんだよ」


「はっはっはー涼し過ぎるですか。こりゃ参ったなはっはっはー。いえね、気温が上がれば潤う産業というのがいくつかありましてな。私はそんな企業を応援したいのですよ。あーですが取り引きは私個人とでお願いしますよ。もちろん効果が確かならですがね」


「なら実演するんだよ〜」



ザンネンネ達はどこかのビルの屋上に移動したのよ。かなり高い建物でこの辺りで一番高いんじゃないのかしら。



「本来の使い方とは違うからおじさん達は危ないから離れてるんだよ〜」



ザンネンネはボンベのキャップを反時計回りに捻ってゆくのよ。開栓と共に物凄い熱波が頭上目掛けて上がっていくわさ。立ち昇る蜃気楼のモヤが凄いわね。

秘書なる男が携帯電話でやり取りしながら銭下馬に言ってるわ。



「先生、八王子の後援会事務所屋外で0,3℃の上昇を確認したそうです」


「はっはっはー素晴らしい素晴らしい。吉田君いいか、空調メーカーや素材メーカーの主要企業の株を買えるだけ買っておきたまえ。あとはそうだなレジャー施設なんかも良いかも知らんな」


「おーい、おじさん達どうだったんだよ〜」


「いやはやザンネンネさん素晴らしいよ。是非とも私と独占契約を結んで欲しい」


「こちらこそ宜しくなんだよ〜一番大きな熱ボンベはこれの十倍はあるからもっとお役に立てると思うんだよ」


「いやいやまずは少しずつ様子をみながらですな。効果範囲と持続性を検証して設置個所の選定をしなくてはなりませんからな。それから本格的な運用ですよ。でもそうですねまずは今と同じサイズのボンベを百ロット注文しますよ。ん、ザンネンネさん角からなにかが羽を広げて……」



ザンネンネの仕事も上手くいったみたいなのよ。ザンネンネを直ぐ側で見守ってたあーしも感慨深いんだわさ。公園でハトッポーイに無心でパンノミミミタイーを千切ってるザンネンネの足元に顔を出したあの日。よじよじと登りたどり着いたザンネンネの角はとてもしっくり来たのよ。ザンネンネの角と同化するようにしがみついたあの時から思うとこの子も成長したのね。

鈍感なあーたももう気づいたのかしら。そうあの時もあの時もあの時も文字通り命懸けでザンネンネの角にしがみついていたのよ。ほら、確認したらどこにもあーしが居たでしょう。ツノリートメントでトゥルントゥルンにされなくて良かったわさ。

それでそんなあーしは熱ボンベが開放された熱で一気に成虫になれたのよ。あーしの生まれ育った世界ではないけれど、この夏は短いわ。きっとあーしセーミと似た生き物もいると思うのだわさ。だってあっちの世界とこっちの世界はこんなに似てるんだもの。これからは時間との勝負なのよ。だからあーしはもう行くんだわね。だからあーしが知ってるザンネンネの話しもここまでなんだわさ。どこかでまた会ったら宜しくなのよ。



ちちちちちちちー。



「ぬあっセミに小便かけられたっ吉田君拭くもんをくれっ」





※※※





「ザンネンネ部長〜来季のゼニゲバさんからの注文書来てますよ。確認お願いします」


「はーいなんだよ〜変わらず前期比に三割増の注文なんだよ」


「もうかれこれ十年くらいのお付き合いなんですよね」


「そうなんだよ〜超太客なんだよ」


「言い方。でもザンネンネ部長、いくら我が社が安泰だからって、会社でその、でっかい色眼鏡にでっかいグラスを持って吸いもしないハマーキ咥えるの止めて下さいよ。そのグラスの茶色いのなにが入ってるんですか。どうせムギーチャとかですよね」


「ん、これシンルーチュウなんだよ」


「まさかの本当のお酒だ。アンズーの果実酒だった。自由が過ぎませんかね。あーブラインドをチャッて指で広げないで下さいよ。それ曲がる癖が付くんですからね」


「これがユウジーロスタイルなんだよ、管理職はみんなこうしないといけないんだよ〜」


「いやいや管理職はそんなことしませんよ」


「なにい〜ユウジーロは管理職じゃないんだよ」


「いや〜役的には管理職だとは思いますけども、もう良いです。あーまたブラインドをチャッてしてもう〜」


「あーあそこでチュウカーン本部長がハトッポーイにパンノミミミタイーをあげてるんだよ」


「野生動物に餌付けは条例違反ですよ」


「許してあげるんだよ〜ザンネンネがあまりにも優秀過ぎるからチュウカーン本部長はすることがないんだよ〜身の丈に合わない昇進で戸惑ってるんだよ〜脇臭なんだよ〜」


「笑顔でめちゃくちゃ辛辣ですね。まぁザンネンネ部長とゼニゲバさんとの取り引きが始まってから過去最高益を毎年更新してますからね」


「涼し過ぎるのを憂いて身銭を切ってまでニホンの気温を上げるなんてコッカイギインの鏡なんだよ〜」


「ニホンの夏は着実に暑くなっていってるって話しですもんね」


「ニホンの夏って季節があんなに涼しくてザンネンネもびっくりしたんだよ〜こっちと同じくらいの気温になる日も近いかもなんだよ〜」


「あれ、ザンネンネ部長、角に、なにか付いてますけど……」






おわり。

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