第31話 ①やる気が起こるはずもなく

 マルコは姉の荘園に来ても、ボケーとしているだけ、畑でボケーとしていると、シーちゃんが近くに成っていたこぶし大の黄色の野菜をちぎって口に突っ込んだ。

「すっぱーい」


 ぺ、ぺと吐き出しながら

「姉さんとこ、こんな酸っぱいの食べてるの」

「煮込むと程よいアクセントになるので、スープによく入れてるよ」

「名前は?」

「トマトといっていたわ」

 これって、旅の商人から買ったのだけど、半日もお話を聞く羽目になったの。


〇×△


 シチリア島のある小さな海の西には、とても大きな海があるの。そこには、体長が50から100mもあるクジラという動物、海を泳ぐのだけれど、が回遊している。

北側の大陸で、その大きな海に面しているある島の近くはクジラの子育て湾になっているらしいの。

 でも、時々、2,3頭のクジラが砂浜に打ち上げられることがあって、地元の人たちは切り刻んで、内臓は近くの地面に埋めるそうなの。

 すると、時々、雑草が育ってこぶし大の緑色から黄色に変化する実ができるので、食べてみたらすっぱくて誰も見向きもしなかった。


 もしかしたら、クジラが小魚の大群を飲み込むとき、時には海上に飛び出すこともあるそうで、海鳥も一緒に飲み込んだのかもしれないね。海鳥は雑食だから、陸地の果実の実や葉を食べるから。

 流れの商人がその話を聞いて、塩気の多い土地で育つって珍しいの、もらっていくよ、と。

 それから、何世代かにわたって育てたけど、甘くもならず、酸っぱいままだったけど、このシチリア島や本国では乾燥していても、潮風が良く吹く場所でも育つそうなの。


 ふと思った。トマトを握って赤くなーれと願った。そのほうがおいしそうだから。もう女神さまの名前さえ忘れた。


〇×△


 その3か月後、種を畑に植えてできた実は赤くなった。酸っぱさは変わらず。

今度はちょっと甘くなってほしいと祈った。


 パンを作るときとは違い砂糖は少なめで塩の倍にした。粉をこねて、1次発酵後どんどん平らに伸ばしていく。打ち粉を打って、折りたたんで、包丁で幅2mmほどに切っていく。

 10分ほど湯で煮て、フライパンにオリーブオイルを引き、切り刻んだトマトとニンニクの水分を飛ばした中に投入。絡めて塩とコショウで味を調整して出来上がり。

トマトパスタの誕生だ。

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