第22話 ①黄金色の畑がゆれる

 僕んちでは少しだけど小麦を作っている。一粒の種もみから収穫したときに5粒採れる。小麦はよく成長して1.5mほどの丈になる。なので、小麦畑に入るとすっかりうずまって頭さえ見えなくなってしまう。雑草取りの時はとても暑苦しい。

 秋になれば、穂は重くなって垂れてくるので、風で倒れるのが多くなる。


〇×△


 3年前に、種もみに手を突っ込んで、そんなに大きくならないで、と女神アンジェリーナに祈った。翌年、丈は1.2mほどになった。次の年も同じように祈ったら、1mになった。今年は70cmほどまで低くなった。

 一粒の種もみから15粒が収穫できるようになった。家族は不思議そうにしていたが、爺さんは、茎の生長分が実に移ったのかもとか解説していた。ほんとうかは知らない。


 今年は、種もみを列単位でまっすぐにまいて、少し間隔をあけるのはどうかと提案した。そのほうが雑草取りが楽だもんね。

 ブドウの収穫の前に小麦を収穫する。

 なんと、20粒もとれた。

 爺さんは、お日さんが良く当たったからだと解説していた。ほんとうかは知らない。


 その後2年、同じように育てると、22粒まで増えた。


〇×△


 親父は、農業ギルドに、この種もみを売りに出かけた。マルコNo1という品種で登録をお願いしたら、22粒は眉唾物だといわれ、却下された。

 しょうがないし、売り物を持って帰るわけにもいかないので、露店で売り始めた。

「たくさん収穫できます!」

「いくらだい」

「1kgがデナリウス10枚です」

「なんだ、隣の店の3倍もするのか」

 夕刻ごろ、少しこぎれいな馬車に乗った執事っぽい人が、

「全部買い上げましょう」

と。


 3年後、伝え聞いたところによると、本国のビザ侯爵という貴族が画期的な小麦生産量増加で 陞爵を受けたそうだ。


 マルコ12歳の春である。


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