第4話 サダノブ 大地に立つ

 2月14日、呼び出された日。

 二人母と妹が準備した紙袋エモノを携えて、僕は戦地に赴く。

 電車に揺られて30分、ついに渋谷の駅に降り立った。

「よしっ!」

 一つ気合いを入れて、目的地である渋谷109ビルを目指す。

 しかし、いきなり現場に突撃した挙げ句、相手と鉢合わせし、即戦闘というのは避けたいところだ。


『一つ、勝てない喧嘩は売るな。

 一つ、勝つ見込のある喧嘩は全力で事にあたれ。

 一つ、喧嘩はルール無用、どんな手を使っても勝て。

 一つ、喧嘩は勝っても勝ち名乗りをあげるな。

 一つ、敗北は死と同義である。』

 応援団五つの啓示が示す通り、勝てる喧嘩の第一歩は、相手を見定める事から始まる。

 そのことを頭に叩き込んだ上で、渋谷109ビル前の雑踏が確認できそうな建物の影に身を預ける。


 さて、建物の陰から、目的地を覗いてみると…

 萌黄色のワンピースを着た茶髪セミロングの女性が佇んでいる。

 顔立ちもここから見えるのだが…


 とっても美人だぁ。

 あれですよ、あれ。

『立てばシャクヤク、座れば牡丹、歩く姿はユリの華』ってやつ!

 鼻筋が通った端正な顔立ちに、目元も涼しげな…。


 んっ?

 何処かで見た事あるぞ?

 あの女性。


 口元にあるホクロが決定打。

 …しばし、考えるが答えが出てくる気配がない。


 さて、そうこう思案していると、くだんの美人がいかにもチャラそうな男三人に囲まれている。

 まあ、この街では見慣れたナンパの風景なのかも知れないが、男たちの執拗なお誘いを丁寧に断り続けている女性…どうにも不穏な空気が漂っている。

 未だ表れない喧嘩相手も気にはなるが、今は目の前にある不安定要因の排除が先決だ。

 となれば、これ以上、放置する訳にはいかない!

 そして、僕は女性の方へ駆け出す。


 三人組の男に両腕を捕まれそうになる女性、タッチの差でその所作を封じる僕…勢い余って一人を投げ飛ばしてしまう。

「何してくれるんだよ、このクソガキィ!」

 僕の胸ぐらを掴み上げてきたのは三人組のリーダー格と思われる男。

品が無さ過ぎKYですよ、お兄さん。」

 売り文句に買い文句

「何だとぉ!」

 男が唾がかかるような位置まで僕の顔を引っ張り寄せてくる。

 このタイミングを待っていた!

 男の鼻っ頭はなっぱしらに頭突きを喰らわせれば、彼はよろめき、胸ぐらを掴んでいた腕の力も緩む、すかさずここで空気投げ…あっという間に男は背中から地面に落ちる。

「グゥ!」

 二人目轟沈!

「クソォ!

 覚えてろっ!」

 先程投げ飛ばされた男と相方がリーダーを肩に抱えて退散する。

 この間2分程度…多少のざわめきは起こったが、まあ穏便に片付いたと思うことにする。


「ありがとう、サダノブ。」

 聞き覚えのある女性の声に思わず振り返れば、くだんの美人が僕に話しかけてくる。

 悲しいかな、このタイミングで僕の頭は緊張でパンパンに膨れ上がってしまった。

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