第25話
(水瀬視点)
『昨夜0時ごろ臨時で開かれた芸能事務所△△ブロダクションの記者会見にて、
大人気アイドルグループ
ある報道が目に止まった。
高校時代に同級生だった宮園沙耶が所属している、自分にとって少し縁のあるアイドルグループだ。
「宮園ちゃん大丈夫かな?」と私が話しかけると、隣にいた佐伯くんが
「え!、うん大丈夫だよ!」と答えた。
「宮園さんについて何か知ってるの?」
私は、佐伯くんの反応が少し不自然だったためそう尋ねた。
「い、いや、、なにも」
目を逸らす佐伯くんの姿に、何かあるな。と確信を得る。
そして私は、佐伯くんは、何か理由があって宮園さんの件について知っていることを隠そうとしているんだと思った。
「そっか」と納得したフリをしておくことにした。
「それにしても、なんの報道にもなってなかった会社のスキャンダルを社長自ら記者会見するってすごい大胆なことだよね」
「そうだね。一体、どうやって社長がそんな決心をするに至ったんだろう?」
佐伯くん。今度は本当に不思議そうな顔をしていた。
◆
(三人称)
芸能事務所△△ブロダクション社長。大門ヒサオは、記者会見を終えた後の静かな執務室で、深く息を吐いた。ふと胸の奥から込み上げてきたのは、昔の出来事だった。
親戚筋にあたる少女が、両親を失って行き場をなくしたと聞いたとき、ヒサオは迷わず手を挙げた。
「俺が引き取る」
血のつながりは薄い。だが、寂しげにこちらを見上げるその子を前にして、そんなことは些末な問題だった。
最初は怯えがちだった少女も、やがて小さな声で「……お父さん」と呼んだ。
その瞬間、ヒサオの胸に温かなものが広がった。自分は家族を得たのだと。
二人暮らしのアパートは狭く、決して豊かではなかった。
だが、食卓を囲めば笑い声があった。
休日には近くの公園に行き、娘は持参したノートに歌詞のまねごとを書きつけ、花壇の前で小さな声で歌ってみせる。
「アイドルになりたいの。歌って、踊って、みんなを笑顔にしたい」
目を輝かせる彼女に、ヒサオは「きっとなれるさ」と力強く答えた。
その夢を支えることが、自分の存在理由だと思った。
やがて娘の夢は、ヒサオの夢にもなっていった。
小さな芸能事務所――△△ブロダクションを立ち上げたのも、娘の夢が背中を押したからだった。
最初のオフィスは借りビルの一室。机と電話、壁に貼ったスケジュール表。それだけしかない空間。
だが娘は見学に来るたびに目を輝かせ、「ここからスターが生まれるんだね!」と胸を膨らませていた。
「必ず大きくしてやる。お前に恥じない事務所にする」
ヒサオはそのたびに心に誓った。
しかし、現実は甘くはなかった。
新人タレントの舞台は空席ばかり、宣伝費は底を尽き、スポンサーからは「もう少し実績を」と冷たくあしらわれる。
銀行からの借入も断られ、事務所には督促の電話が鳴り続けた。
夜、デスクに崩れるように座り込んだヒサオの視線の先には、娘と並んで写った写真立てがあった。
「……守らなきゃいけないのに」
己の無力さに、胸を締め付けられる。
そんなとき、業界の人間から耳打ちされた。
「BSSコーポレーションに話を持っていけばどうだ? あそこは資金も人脈も潤沢だ。ただし……見返りを求められる」
評判は芳しくない。黒い噂も絶えない会社だった。
だが背に腹は代えられなかった。
倒産すれば、これまでの努力も、夢も、娘に誓った未来もすべて水泡に帰す。
ヒサオは重い足取りで、BSSコーポレーションの社長室の扉を叩いた。
◇
社長室に足を踏み入れた瞬間、ヒサオは空気の重さに息を呑んだ。
革張りの椅子に悠然と座るBSSコーポレーション社長・黒田は、笑みを浮かべて彼を迎えた。
「よく来たな、大門君。話は聞いている。資金が要るんだろう?」
机に置かれた分厚い契約書。
条件を問うと、黒田は軽く指先で机を叩きながら、平然と告げた。
「代わりに――お前のところのアイドルを一人、うちに差し出せ」
ヒサオの血の気が引いた。
「……そんなこと、できるわけがない!」
叫んだ彼を見て、黒田は愉快そうに笑う。
「なら、倒産だな。」
その言葉は胸に突き刺さり、ヒサオは言葉を失った。
この話を、娘に悟らせまいとした。
だが、秘密は長く隠せなかった。
ある夜、居間で背を向けて沈黙するヒサオに、娘が静かに声をかけた。
「……お父さん、私、知ってるよ」
驚いて振り向くと、娘は強い瞳でこちらを見ていた。
「私、行くよ。そうすれば事務所は助かるんでしょ?」
ヒサオは慌てて否定した。
「そんなことはさせない! お前の夢は俺が守るんだ!」
必死の叫びは、どこか震えていた。
娘は小さく首を振り、笑顔を作った。
「守ってもらってばかりじゃ、夢は叶えられないよ。……大丈夫、私が行く」
ヒサオの胸は張り裂けそうだった。だが、娘の決意の前に、言葉を失った。
出立の前夜、二人は狭い食卓を囲んだ。
湯気の立つ味噌汁を前にしても、箸は進まない。
「……ありがとう。ここまで育ててくれて」
娘の言葉に、ヒサオはただ俯き、握った拳を震わせた。
「帰ってきたら、また一緒にご飯食べようね」
そう言って見せた娘の笑顔が、あまりに眩しくて、痛かった。
翌日、黒塗りの車に乗せられた娘は、振り返りもせず去っていった。
ヒサオは玄関に立ち尽くし、耳に残る「お父さん」という声を何度も反芻した。
その後、△△ブロダクションはBSSからの融資で息を吹き返した。
有力なスポンサーがつき、人気アイドルグループも育ち、会社は次第に業界の中で存在感を増していった。
ある日、黒田から一つカセットテープが送られてきた。
そのカセットテープをつけてみる。
一人の腹を膨らませた妊婦と思われる女性が、複数人の外国人男性と行為に及ぶ映像だった。映像の中に映る淫売が、自分の娘であった存在だと気がつくのには時間がかかった。
◇
「お宅のアイドルの亜久屋さんについて話があります。」
篠宮という若者に、所属アイドルの不祥事を訴えられた時、大門は当然。
揉み消す気でいた。娘の犠牲の上に成り立っている、この事務所を倒産させるわけには行かない。そう思っていた。
「BSSコーポレーションが関わっていても?」と篠宮に言われるまでは。
「は?」
篠宮の話によると、亜久屋の手下として実行犯を務めていた、男がファンから言いなりになったきっかけは、会社をリストラされたことにあったらしい。
そして、その会社というのが
「BSSコーポレーションだと?しかし、、それだけじゃなんの証拠にもならない。」
「いや、なるんです。彼が、いいなりに成り下がった直接的な要因は離婚です。その離婚に関わっていたんですよ<グンタイ>が」
「まさか、、」
<グンタイ>。BSSコーポレーションが、独自に所有する特別技能集団。彼らは、女性を陥落させるありとあらゆる技能を修得しているとか。
「証拠となるデータもありますがみますか?」
「いいや、結構」
<グンタイ>という名前自体が、表社会の人間は知り得ない情報だった。わざわざ用意されなくても、大門はすでに篠宮の情報を信頼できていた。
一方篠宮は、(危ねぇ〜)と内心で呟いていた。原作知識というアドバンテージで大門の過去も、<グンタイ>のことも知り得ただけで、別にファンの一件にBSSコーポレーションも<グンタイ>も関わっているかは、定かではなかった。つまり賭けだったのだ。
そんな、篠宮の内面はつゆ知らず。大門は、亜久屋を解雇することを心に決めていたのだ。
◇
記者会見を終えた後、「本当に良かったんですか?」と、芸能事務所△△ブロダクション社長。大門ヒサオは秘書に尋ねられる。
彼は、答える「これで良かったんだ」と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます