第10話 佐伯の再起 2 (篠宮蓮)
あの夜から、俺は水瀬とどう接すればいいのか、正直わからなくなっていた。
あんな状況で助けてしまった以上、彼女の中で俺はただの同級生じゃなくなっている。
距離を詰めすぎれば、また怖がらせるかもしれない。
離れすぎれば、何事もなかったように忘れられてしまうかもしれない。
だから、俺は「普通」を装った。
講義の帰り遭遇したら、カフェで少し話し、彼女が笑えば、それで一日が救われる気がした。
◇
水瀬は、相変わらず誰にでも優しい。
その優しさは、無自覚に誰かを惹きつける。
俺も、たぶんその一人だ。
だが、問題は佐伯だった。
浪人生活の苛立ちを彼女にぶつけ、負担をかけていることが透けて見える。
彼女はそれを「支えなきゃ」という言葉で飲み込んでいるが、それがどれだけ危ういことか、本人はわかっていない。
俺は昔から、
こういう
「無自覚に他人に負担に強いる奴が」嫌いだ。
前世でも
ゲーム漬けの頃、仲間に迷惑をかけて、結局自分も潰れていったあの感覚を、佐伯の中に見てしまう。
そして、それを見ている水瀬の表情に、どうしようもなく苛立ちが募った。
◇
そんなある日、水瀬から連絡があった
──「佐伯くんが、ちょっと変なんだ。助けてほしい」
胸が冷たくなる。
送信時刻はついさっき。
俺は走った。
辿り着いたのは、人通りの少ない路地。
佐伯が、柄の悪い男二人と立ち話をしている。
笑っているが、その笑いには追い詰められた匂いがあった。
「……何やってんだよ」
背後から声をかけると、佐伯が振り返る。
その目には、俺がかつて鏡で見た、行き場のない苛立ちと諦めがあった。
◇
「お前!僕のことに口出しするなよ!」
噛みつくような声。
俺は一歩踏み込み、視線を外さずに言った。
「……水瀬をこれ以上泣かせるな」
その瞬間、佐伯の顔が歪んだ。
悔しさと恥ずかしさ、そしてほんの少しの迷い。
俺は続けた。
「なにカッコつけて、追い詰められてんだ。」
「……何がわかるってんだ」
「俺も同じだったからだよ。俺だって昔は、現実は蔑ろにした。家族も、自分も」
佐伯は口を閉じた。
その目が、わずかに揺れる。
「……お前なんで、水瀬の足枷になってんだよ」
しばらく沈黙が流れた後、佐伯は小さく「……悪かった」とだけ言った。
その声には、ほんのわずかだが、昔の柔らかさが戻っていた。
◇
離れていく背中を見送りながら、俺は深く息をついた。
水瀬が少し離れた場所で待っていて、安堵したように笑った。
その笑顔を見た瞬間、守りたいという感情が、胸の奥でまた強くなってしまった。
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