第十三話 客室「夕顔」その二 side:佐藤栞里

 冬季合宿1日目の夜、夕飯を終え、民話の集いと天体観測、そして温泉を楽しんだ私達は、自分達の泊まる部屋に向かう。

「お風呂よかったね。小さめだけど、お庭があったね」

「うん。ライトアップされていて綺麗だった」

 後ろを歩く卜井さんと遠藤さんが楽しそうに話している。

「そういえば、佐藤先輩。今回の旅行。どうして鈴木先輩も来ているんですか」

 不意に卜井さんから質問が飛んでくる。

「それは、曽我君が病欠だから。我がサークルの名誉会員である鈴木君に穴埋めで来てもらったの」

 私は、変な勘ぐりを入れられないように即座に答えた。

「そうですか。私はてっきり……いや。何でもありません」

 卜井さんは、そう言って口をつぐんだ。

 私達が部屋を開けると、真正面に大きめの花瓶に入ったスイセンが出迎えてくれる。

「とりあえず、布団を敷こうか」

 私は二人に促す。

「はーい」

 二人は声を揃えて答えた。

 私達は花瓶を倒さないように机を部屋の隅に移動させ、布団を敷き終える。

「それじゃ、何処に寝るか、じゃんけんで決めようか」

 私は公平な提案をする。こういう時に先輩である特権は使いたくない。いざ、勝負。


 結局、私は負けて、入り口近くで寝ることとなった。

「このお花。ミハエルさんが飾ってくれたんだよね。いい匂いがする。ちーちゃんも嗅いでみなよ」

「わぁ、ほんとだ。そういえば、ミハエルさん、なんか香水の匂いきつくなかった?」

「私も、それ思った。ミハエルさん、イケメンで、マッチョで、紳士的で良い感じだと思うんだけど、そこはちょっとマイナスかな」

「はるちゃん、マッチョ好きだよね。大山先生はどう?」

「いや、大山先生は、ちょっと違うの。熊さんみたいでイケメンじゃないから」

「やっぱり、顔の方が大事?」

「うーん。そうかも」

「それじゃ、鈴木先輩は?」

 急に、遠藤さんの口から鈴木君の名前が出てくる。卜井さんがどう答えるか、少しソワソワする。

「いや、それも違う。ああいう、しょう油系よりもソース系がいいな」

 卜井さんの言葉に胸をなでおろす。

「ところで、佐藤先輩は、鈴木先輩とどんな関係なんですか?」

 卜井さんから絶妙なタイミングで鋭い質問が飛んでくる。

「ただの幼なじみ」

 私は間髪入れずに答える。女子のこういう質問には即答が一番だ。

「そうですか。鈴木先輩のこと、良いなって思っている子、何人かいますから。もし、告白するなら早い方がいいですよ。私は違いますけど」

 卜井さんの言葉に、私の心拍数は上がる。

「そういえば、今日、タロット持ってきているんですよ。色々占いませんか」

「やるっ」

 私は卜井さんの提案に素直に乗る。

「私もっ」

 遠藤さんも一緒にタロット占いをする事になった。


「はるちゃん。よくタロットしてくれるけど、どうして」

 遠藤さんの占いが終わり、卜井さんはタロットカードをひとまとめにする。遠藤さんが質問した。

「うーん。何ていうんだろう。まぁ、私が楽しいからかな。こうやって占っていると、色んな表情が見えてくるんだよね。何か切羽詰まっているなとか、楽しそうだなとか。カードを通じて、普段面と向かって話せない話題でも、色々おしゃべりできるのが、何か、良いなって」

 卜井さんは少し考えて、淡々と話す。中学の頃から、少し異性に媚びるところはあるが、裏表のない良い子だと、私は思う。

「あぁ、もちろん占った内容とか、誰が誰を好きなのかとか、そういうのは漏らさない主義だから、私は」

 卜井さんは、慌てて、そう付け加える。確かに卜井さんは、おしゃべりだが口が軽い訳では無い。私は中学の頃からの付き合いだから、よく知っている。

「それじゃ、次、先輩の番ですよ。カードを選んで下さい」

 卜井さんに言われ、私はカードを数枚選んだ。

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