第15話:現実の日常と清算の絆

夕陽が教室の窓をオレンジに染める。放課後の学校、机には悠斗のノートが置かれている。「日常を壊したい」と書かれた落書きは、今はただの過去の痕跡。迷宮から戻った悠斗は、教室の空気を感じながら深呼吸する。現実だ。

「天海、ぼーっとしてどうした?」佐藤玲奈が隣の席から笑顔で声をかける。彼女の声は、迷宮の幻影で何度も聞いたあの声と同じ――温かく、優しい。

「いや…ちょっと、思い出しただけ」悠斗がノートを手に取り、苦笑する。迷宮の記憶が胸をよぎる。創造者の玉座、鍵の共鳴、仲間との絆。あの戦いが、現実を取り戻した。

カイトが教室のドアから顔を出す。「おーい、悠斗! 文化祭の準備、遅れるぞ!」サングラスをかけ、リュックを背負った彼は、迷宮でのオタクなムードメーカーそのまま。だが、今はクラスメイトに囲まれ、笑顔が弾ける。

「カイト、めっちゃ人気者じゃん」悠斗が笑う。

「へへ、迷宮で鍛えたコミュ力、な!」カイトがウインク。文化祭の準備室で、クラスメイトとゲームの話で盛り上がる彼の姿は、かつての孤独な少年とは別人だ。

リナが廊下から現れる。現実では元暗殺者ではなく、普通の高校生、彩花(あやか)。剣はないが、鋭い目は変わらず。「遅いぞ、悠斗。準備、手伝え」彼女の声には、迷宮で築いた絆の余韻。

「はいはい、了解!」悠斗が手を上げる。彩花の笑顔は、自由を勝ち取った証だ。

セレナもそこにいる。現実では、迷宮の案内人ではなく、転校生のミリアとしてクラスに溶け込む。金髪が夕陽に輝き、穏やかな笑顔。「みんな、楽しそう。私も、こんな日常、初めてだよ」

悠斗は胸が熱くなる。(迷宮で戦った仲間。創造者のゲームを乗り越えて、ここにいる。現実の伏線、清算できたんだ)


現実の日常:伏線の回収

文化祭の準備室。教室は紙飾りやポスターで賑わい、笑い声が響く。悠斗は佐藤玲奈と一緒に看板を描く。

「天海、迷宮の話、ほんとすごかったね」玲奈が笑う。迷宮から戻った後、悠斗は彼女に全て話した。ノートに書いた「日常を壊したい」、彼女を無視した後悔、創造者のゲーム。

「ごめん、玲奈。あの時、無視して。話したかったのに、逃げたんだ」悠斗が頭を下げる。

玲奈が手を振る。「いいよ。戻ってきて、こうやって話してる。それで十分。友達だろ?」

悠斗は頷く。「ああ、友達だ。ありがとう」ノートに書いた願いは、迷宮を生んだが、今は新しい願い――「日常を大切にしたい」――に変わった。

カイトが近くでクラスメイトとゲームの話を続ける。「あの文化祭の時、話しかけられなかったけど、今はもう大丈夫!」彼のリュックには、迷宮で使ったLEDランタンがお守りとして入っている。

彩花(リナ)は模擬店の準備を手伝いながら、クラスメイトと笑う。「自由って、こういうことか。迷宮で学んだよ」彼女のノートに書かれた「自由になりたい」は、現実で叶った。

ミリア(セレナ)は窓辺で夕陽を見つめる。「創造者に作られた私だけど…君たちのおかげで、自由になれた。この日常、守りたい」

そこに、田中翔が現れる。迷宮での敵グループのリーダー、現実では普通の高校生。「天海、俺も…あの時、鍵を奪おうとした。現実を壊したかったんだ」

悠斗が手を差し出す。「過去は清算した。一緒に文化祭、楽しもうぜ」

翔が握り返す。「ああ、ありがとう」


創造者の余韻

夜、文化祭の準備が終わり、みんなで校庭に集まる。星空の下、キャンプファイヤーの準備が進む。悠斗はノートを手に、みんなと話す。

「創造者…俺たちの願いと後悔だった。あのノート、全部繋がってたんだな」悠斗が呟く。

カイトが笑う。「でも、倒したぜ! 俺たちの絆、めっちゃ強かった!」

彩花が頷く。「あの戦いで、自由の意味がわかった。現実で、仲間と生きるのが自由だ」

ミリアが微笑む。「私の願いも叶ったよ。創造者から解放されて、君たちとここにいる」

玲奈が星を見上げる。「天海、迷宮の話、まるで夢みたい。でも、この日常が、最高の現実だよね」

悠斗は頷く。「ああ。伏線、全部回収した。現実を、ちゃんと生きるよ」

ノートを閉じ、ポケットにしまう。迷宮の鍵は消えたが、絆は残った。

突然、星空に一瞬、光が瞬く。創造者の余韻か、迷宮の残響か。だが、悠斗たちは笑い合う。

「次の冒険は、文化祭だな!」カイトが叫び、みんなが笑う。

現実の日常が、新たな物語の始まりだった。

(完)

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無限の迷宮を抜ける鍵 ギガンテス大大 @GigantesO

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