第1.5話 初めての住民票発行

 しばらくしてエレベータが開くと、そこは市役所の受付窓口のような場所だった。


 受付カウンターがあり、その手前には、待合用の背もたれがないタイプの椅子が並べられている。左右には廊下があり、右手には『仮眠室』と書かれた部屋もあった。


「それではこれより住民票を発行します。初回に限り同居人としたい方がいらっしゃればその旨も申し出てください」


 カウンターの向こうから受付と思われる制服姿のお姉さんが言った。

 参加者が次々と窓口に集まっていく。僕達も並んでしばらく待つと番が回ってきた。


「薄井健太様ですね、同居人とされたい方はいますか?」

「隣の佐藤智樹を同居人にお願いします」

「かしこまりました。2名以上で滞在可能な物件を選定しますので、お呼び出しがあるまでお待ちください」


 カウンター手前にある待合用の椅子に座った。しかし改めて見回すと本当にいろいろな人たちがいる。メイド服の女、学者風の男、気弱そうな女子高生。それから……


「あ、トダユイ!僕も見つけた」

 前方の右手奥の椅子に黒いワンピースにツインテール姿のトダユイがいた。

「やっぱ生トダユイ可愛いよな~」


 トモキも見つけていたようでそんな風につぶやいた。

 周りもトダユイに気づいている人が何人かいるようでチラチラとトダユイの方を見ている。


 そんなトダユイ側の反応はというと、どこか煩わしそうな苛立ったような表情を見せていた。あれ?トダユイ、プライベートだとそんな感じなの?


「お待たせしました。薄井健太うすいけんた様、佐藤智樹さとうともき様」

 呼び出しがかかり僕たちはカウンターの方に向かった。


「こちら住民票になりますので後ろのエレベータの数字盤下にあるスキャナーで住民票に記載のQRコードを読み込ませてください。何か質問はございますか?」


「あの、1年間滞在で100億円もらえるってことですけど、今住民票に記載の家に1年間住み続けるってことですか?」

「いえ、今の住所は滞在可能日数が決まっております。こちら住民票の裏面をご覧ください」


 そう言われて住民票の裏面を見ると大きく滞在可能日数3日と書かれている


「こちらの滞在可能日数が増加することはありません。滞在可能日数以降は転居していただき、別の住所に滞在していただくことになります。ただし、転居にはその住所固有の転居条件を満たさなければなりません。転居条件自体はその住所に載っておりますので、こちらの住民票には記載されておりません」


 なるほど転居条件を満たして住所を転々として1年滞在を目指す仕組みらしい。


「もう1つ質問いいですか?この住民票を失くしたらどうなりますか?」

 受付のお姉さんは悩むそぶりもなく答え始める。


「今回皆様に滞在していただく物件には、過酷な環境下の物件も存在しておりますので、意図せず住民票を紛失してしまうこともあるかと思います。そのため住民票を紛失してしまったと判断した場合、直ちにこちらで再発行を行い、皆様のお手元に届けるようになっております。ただし再発行からお届けには1時間ほどかかりますので、滞在可能日数を1時間以内に超過してしまう場合には必然的に住民権剥奪となりますのでご了承ください」


 失くしても退去にはならないと聞いて安心した。

「ほかに質問はございますか?」

「いえ、大丈夫です」


「ありがとうございます。では最後に皆様に言っていることなのですが、転居条件に関しまして、皆様の性別、国籍、能力、その他個性によって達成不可能になることはありませんのでご承知置きください。それでは、滞在をお楽しみください」


 受付のお姉さんの言葉を背にエレベータに住民票をスキャンさせるとエレベータが開くトモキと共に乗り込むと動き出した。



こうして、いよいよ滞在が始まったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る