第2話 田舎の十字路に建つ家 1日目
改めて住民票を確認すると以下のように記載されていた。
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氏名:薄井健太
住所:田舎の十字路に建つ家
備考:以下の場合に住民権を剥奪
1:死亡した場合
2:本人の意思で脱落したい旨を申し出た場合
3:滞在物件の滞在可能日数を超えてしまった場合
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備考欄に書かれている内容は黒服からの説明であった通りだ。
記載内容で気になるのはやはり住所。
「『田舎の十字路に建つ家』かなんか大雑把だな」
「そうだね、僕たちは都会育ちだから田舎の家なんてイメージの中にしかないけど」
「おいおいケンタ一緒にするなよ。俺は実家のばあちゃんの家が田んぼだらけの田舎だから多少はイメージ湧くぜ」
しばらくするとエレベータが開いた。
そこから見えた景色はまさに田舎と形容すべき田んぼだった。田んぼを区切る唯一の道として十字路が存在していた。まさに田んぼの田の字のような場所だった。
僕たちがいる箇所を十字路の下側だとして、上側にあたる部分に洞窟、右側に民家左側にコンビニのような店が見えた。そして十字路の真ん中上部にモニターが釣り下がっており、そこには以下のように書かれていた。
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滞在可能日数:3日
転居条件:3日滞在の後、上半身下半身の50%以上を衣服で覆った状態で衣服の99%に汚れが付いていない状態でエレベータに乗ること。
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「転居条件は、上半身下半身の50%以上を衣服で覆った状態…これは下着とか上半身裸で転居はできないってことを指しているのか。で、衣服の99%に汚れが付いていない状態か。十字路以外の部分は、がっつりと田んぼになってるから泥で汚れることは避けられない。要は道を通ってご帰宅くださいってところか」
「でもこれだけだと、ただ道を通って滞在してくださいってことで、条件が簡単すぎる気がするけど…」
「最初だし簡単な条件の物件が選ばれたんじゃねえのか?ま、とりあえず俺たちの家を見てみようぜ」
僕たちは十字路右側にある民家を目指した。
少し歩くと民家の全容が見えた。
民家は1階建ての横に長い長方形の長屋で、玄関はちょうどその中央についている形になっている。玄関以外にはカーテンを引いた窓が見える。正面から見える部分において玄関以外の入り口はなさそうだった。
玄関の扉は引き戸で鍵もかかってはいなかった。
「「おじゃましまーす」」
と挨拶して中に入ってみた。
家の中は左手に台所とダイニング、右手にリビングとベッドが3つ並んでいる。左手と右手それぞれ大体6畳ほどの広さになっている。
「結構広いな」
「この扉は何だろう」
左手のダイニング側に扉が1つ、右手のリビングに3つ付いている。
リビング側の扉は開けて見ると、左手からそれぞれ「洗濯機」「トイレ」「風呂場」となっていた。
「おー、ちゃんと生活できるようになってるじゃん」
ダイニング側の扉は所謂、
ダイニングにあるテーブルの上にメモ用紙が置かれていた
「食料は向かいにあるショップでお買い求めください。」
台所に冷蔵庫もあったが、中は空となっていた。
「なんだよウェルカムドリンクみたいなのもないのか」
「めんどくさいけど、買いに行くしかなさそうだね、お金は持ってないけど大丈夫なのかな」
「洞窟みたいなところもあったし金が稼げるようになってるんじゃねーか?」
「そうかもね。とりあえずお店に行ってみよう」
荷物をダイニング側に置き、玄関から外に出る。
ショップは十字路の反対側に位置するのでまっすぐ歩いていくだけである。
「おい道の真ん中に何かいるぞ」
「あれは犬かな?」
十字路の真ん中に黒くて体格のいい犬がうろうろしている。
その犬がこちらを向いた瞬間、猛烈な勢いで走ってきた
「やべ!」
大慌てで僕たちは家の中に入り、引き戸を閉めた。
ガンッ
犬が思いっきり刷りガラス張りの引き戸にぶつかった。
「うぅぅぅー」
ぶつかった後もガラス越しに犬がうろついているのが見える。これでは外に出られない。
「よし、裏口から出て犬が家から離れるのを待とう」
「うん」
裏口の扉をそっと開けて、犬がいないことを確認してから裏庭に出た。裏庭には物干し竿が置かれているだけだった。
左側から回り込み玄関前の様子を伺う。
犬はしばらくうろうろした後、元の十字路の方に戻り、さらに右手にある洞窟の方に入っていった。
「あいつあの洞窟から来たのか」
これで洞窟に入ろうとした場合はあの屈強な犬と戦わなくてはならないということが分かった。
しばらく待っても、犬が洞窟から出てくる気配がないので、僕たちは全力ダッシュで店の方へと走った。
店は自動ドアだったので犬が追ってきたら店内まで追っかけ回されることになっていただろう。
中はコンビニと同じような造りになっていた。誰もおらず、右手に食料品や日用品、奥の方には服が置かれており、左手のレジにあたる部分では「ご自由にお持ちください」と書かれた立札があるだけだった。
「どうやら、金は要らないみたいだな」
「洞窟の中に入らなくてよさそうだね」
トモキと品揃えを確認していくと、日用品のコーナーに見慣れないスマートウオッチのようなものが置かれている。
箱に書かれた商品名には「衣服汚れチェッカー」と書かれている
「お!これで転居条件を満たしているか確認できそうだな」
トモキと装着し液晶右にあるボタンを押してみる。赤色のレーザーのような物が全身を覆い、『ヨゴレ1%未満』と表示された。
「へーなるほど。これで逐一今自分の服がどれだけ汚れているかがわかるっていうわけか。どれくらいで1%以上になるんだろうな」
そう言うとトモキは自動ドアから店を出て、田んぼに向かい、泥で自分の服のズボンを汚し始めた。
「トモキ、わざと汚して汚れが落ちなかったらどうするの」
「大丈夫だろその時には店の服に着替えればいいさ」
トモキは自分が着てきた服に愛着などはないらしい
「どれどれ」
そう言うとトモキは「衣服汚れチェッカー」のボタンを押す。しばらく待つと、液晶面には赤文字で「ヨゴレ5%」と表示された。
「ふーんズボンの裾くるぶし位までで5%なら田んぼが余ほど浅くない限りは、やっぱり田んぼだけを歩くのは難しそうだな」
「店に定規があったから深さを測ってみよう」
定規を持ち出し、田んぼに沈めてみると12cm程まで埋まったのを確認した。
「12cmか深さが均一でないにしても、やっぱりこれじゃあそのまま歩くのは難しそうだな。」
「木の板か何かで橋を作っていけば田んぼ部分も歩けるようになるかもしれないね。さっき店の中に鋸とか斧があったから家の周りの木を切っていけばもしかしたら橋が作れるかもしれない」
「だとしてもあの犬がいる以上は長時間作業はできないし、それに少なくとも俺は図工は2で3日で立派な橋なんて、とてもできそうにない」
「そうだね、僕も図工は苦手だったから、難しいな。それに橋を作っても結局犬がも渡って来れるから意味もないだろうし」
「だな、犬の接近を妨害できるバリケードみたいなのを家にあるテーブルとかで作れればいいんだが、とりあえず1回食料だけ家に持って帰ろうぜ」
僕たちはおにぎりやパックの肉など食料品と、必要になりそうな日用品をありったけ備え付けのレジ袋に詰め込み店を後にした。
十字路に犬はいないようだ。洞窟の方からも犬が出てくる気配はない。
「よし!走るぞ!」
レジ袋を両手に全力ダッシュを始める。店から家までは200メートルほどだろうか
十字路の真ん中を過ぎたあたりで後ろから犬の唸り声が聞こえた。
「ウゥゥゥーバウバウ」
後ろを振ると案の定先ほどの黒い犬が全力でこちらに向かって走ってきている
「やべー」
後ろを振り返ったはずみでパック肉など何点かがレジ袋からこぼれたがそんなことはおかまいなしに僕たちは全力ダッシュを継続した。あわよくばパック肉に夢中になって欲しかったが、犬はおかまい無しにこちらに向かって来ている。
「ぐわぁ」
家まであと一歩というところでトモキが悲鳴を上げた。
見ると犬がトモキの右足に食らいついている。
「トモキ!」
「くそ!離せよ!」
僕はさっき店で入手した麺棒を取り出し、思いっきり犬の体の側面を叩く。
もみあいになって何度も何度も叩いているうちに犬がトモキの右足から離れた。
その隙に、トモキも麺棒を取り出し、トモキは右足をかばいながら二人して全力で犬を叩き続けた。僕は運動神経が良い方ではない。犬が何度か飛びかかり、その度に肩やひざに切り傷を作った。
暫く、そうしているうちに犬と自分たちの距離が広がった。
その隙に僕たちは玄関の引き戸を開け一瞬で体を滑り込ませ、扉を閉める。間一髪のところで犬と僕たちの間に壁を作ることに成功した。
「ふーなんとか助かったけど痛え」
「まって、今手当てするよ」
そういうとレジ袋から包帯と消毒液を取り出し、手当てをした。
「ありがとな健太、しかしそれにしてもあの犬はどうにかしないとだめだな」
僕らは着替えて脱いだ服を洗濯機に入れて洗濯を開始した。スイッチを押すとものすごい勢いで洗濯機が動きものの10秒ほどで完了を知らせる音が鳴った。
あまりにも早すぎるので誤作動を起こしたのかと思ったが、トモキがつけた泥の汚れも血の跡もきれいさっぱり洗い流してありしかも乾燥まできっちりと終っていた。
「へー最新の家具備え付けてますってか」
続いてキッチンに向かい食材を調理したがこちらは特に変わったこともなく普通のガスコンロ冷蔵庫、電子レンジがあるだけだった。
時計を見るとまだ19時を少し過ぎたくらいだったが休養もかねてその日はもう寝ることにした。
3つあるベッドのうち角二つを使うことにして真ん中に荷物を寄せた。
天井を見つめて犬について考えるうちにいつの間にか眠りについた。
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