第21話 防衛都市の家 10日目

AM 9:00

 疑似的な朝日の日差しで目が覚めた。

 ベッドから体を起こすと顔を洗って、服を着替える。思えばこの防衛都市の家に来てから外と同じような文明的な日常が過ごせていた。防衛だけが非日常だけど。

 日課のランニングのために外に出た。

 今日で防衛も最終日だ。色々あったけれどとりあえず今日という日を迎えられてよかった。

「よう!ケンタ」

 3丁目の西の方を走っているとトモキに会った。

「よう、トモキ、もう大丈夫なんだね」

「ああ、昨日はメンヘラ拗らせちまって悪かったな、いや~イケメンキャラにあるまじき失態だったぜ」 

 どこか一皮むけたような印象を抱かせる。

「はは、でもトモキの気持はわかるよ。僕もみんなが凄すぎてここにいていいのかって時々思うからさ」

「だよな~まあ俺の秘められて力が覚醒するのはもっと後ってことで、伏線として残しておくぜ」

「何の伏線だよ」

「うっすお前らか」

 トモキと4丁目付近まで並走していると

 アライに会った。

「新井さん」

「トモキ、お前もう大丈夫なのか」

「はは新井さんもすみませんもうバッチリですよ。覚醒するための伏線は張ったんで」

「覚醒の伏線だ?よく分かんねえけど。まあ大丈夫ならいいぜ」

 しばらく3人で並走して走る。

「ところでカザキリが昼に1回集まるって言ってたな」

「ああ、またなんかパーティーとかやるんじゃないすか、日常編だと妙に外見に似つかわしいギャルキャラ発揮するんで。まあ付き合ってあげましょう」

「…お前なんかそんなこと言うやつだったか?なんか吹っ切れてるな」

「キャラの自覚は大事ですよ。外見描写がなさすぎるとイケメンキャラであることを忘れてしまいますからね」

 トモキ、なんかメタ読みみたいのしていないか?


PM 1:00

 僕たちはカザキリの家に集まっていた。

「みんな集ったわね」

「はいはい、『最後の思い出作りをしましょう』みたいな感じでしょ」

「……佐藤智樹あなた心中を吐露してキャラを再構築したわね」

「まあ僕のことはいいですよ『思い出作り』しましょうよ」

「そうね、今日はたこ焼きパーティーよ!」

「おいおいまた食い物」

「あーしたこパ大好きっす!」

 アライが文句を言ったがトダユイは大歓迎の模様だ。

「わ、私もたこ焼きパーティーいいと思います」

 サイカちゃ…ムジョウも同意した。

「そういえば無情彩香、あなた自身の話はまだほとんど聞けていないわね」

「ええと、なんか最近やたらと意識が飛んでいて、でもせっかく皆さんとお会いできたのですから多少は私のことをお話ししましょう」

 最終日でようやくムジョウのことを聞くことになるとは。

「わ、私は化学研究所で研究員をしています。化学研究と言っても薬品でやけどとかそんなことはなくて安全な職場です」

 そうか、怪我をしない職場なんだね。それはよかった。

「化学が好きでそれで研究者になったんです。あと趣味と言えば読書でエッセイなんかを読むのが特に好きです」

「ところであなた怪我をすると意識が飛ぶ感覚があるようだけれど、それはいつからのことなの?」

「ええ、そうなんです。学生時代にそのイジメにあってしまって。それ以来怪我をすると意識が飛ぶようになってしまって。そのイジメというのが、私の本…」

「はいはい、そのへんはそのうち別エピソードとして語りましょう。今は展開的に過去回想は詰め込めないので」

 トモキが展開をメタ読みしてストップしてきた。

「あ、えとそうですよね私なんかの昔話をしてもしょうがないですよね」

 結局最終日までムジョウの話というかサイカちゃん誕生秘話のようなものは語られなかった。

 そのあとはたこ焼きパーティーを楽しんだ。


PM 6:30

 最後の防衛日。時計台のある広場に全員集まっていた。

「最後の防衛日ね」

 カザキリは全員を見回すと言った

「長々としゃべってもしょうがないわ。皆だからここまで来れたのよ。絶対に防衛しましょう。フォーメーションは昨日までと同じ。質問は今日もスキップしましょう。最後の防衛装置がどこかにあるそのことも忘れないで」

「はい」「はいはーい」「了解っす」「おう」「最後までワシがやるー」

 そうだ。最後の防衛装置は隙間時間に全員探していたけど結局見つかっていなかった。


PM 7:00

ビービー

「WAVE1 都市全周にレベル1人型ヒューマロイドが計100体出現。直ちに防衛に向かってください」


「100体!?マジすか?」

 モニタ上には円周上におびただしいまでの丸印が並んでいた。

「いえ、最終日だから物量戦で来ると思っていたわ。このが来た時のために質問を残しておいたのよ」

 そう言うとカザキリは質問用のアナウンス装置に近づく

「オペレーション、モードオフ」

 都市全体に聞こえる声量で停止オペレーションが響き渡った

「直後モニタ上の丸印は消えた」

「これで1WAVE潰せたのは大きいわね」


PM 7:10

ビービー

「WAVE2 都市全周にレベル2犬型ヒューマロイドが計50体、レベル3狼型ヒューマロイドが計25体出現。直ちに防衛に向かってください」

「徹底して物量戦で来るつもりね、新井健、佐藤智樹、薄井健太あなたたち3人で殲滅しなさい。残弾は意識しなくていいからマシンガンをありったけ持っていきなさい」

「おう」「はい」「ほい」

 サイカちゃんが不満そうな顔でこちらを見ている。

「ワシにも準備運動が必要なんじゃが……まあよいか女王型はやつだけで斬撃数を稼ごう」

「どのみち次には出てもらうわ。あと3人の討ち漏らしが来た時ように構えておきなさい」


 アライさんとトモキと連携して。

 僕がもっとも外側、トモキがその内側、アライがさらに内側の円周コース上の敵を倒すことになった。

 深追いはしない討ち漏らしは残り3人の防衛者で時計台のある家から倒すとカザキリから連絡が入っていたから僕は目の前に集中した

 ダダダダダダダダ

 マシンガンをありったけ犬型と狼型に当て続ける。ちなみに犬型も狼型も銃弾の前では強さに差異がなかった。頭に2~3発当たると行動不能に陥っていた。

 それにしても、と僕は考えていた。この防衛都市の攻略はこれでよかったのだろうかと。

 ダダダダダダダダ

 国内屈指の攻撃力を誇るサイカちゃんがギリギリ倒せるような敵が出現するとなると

 ダダダダダダダダ

 メンツがハズレだった時点でこの家の攻略は不可能になってしまわないか?

 ダダダダダダダダ


PM 7:20

[カザキリサイド]

ビービー

「WAVE3 1丁目北にレベル4狩人型ヒューマロイドが20体、2丁目東にレベル5熊型ヒューマロイドが10体、4丁目西にレベル6忍型ヒューマロイドが5体出現。直ちに防衛に向かってください」

「サイカちゃん、4丁目西で忍型を殲滅して、その後は狩人型、熊型順にの殲滅を目指しなさい、戸田唯!あなたは図書館に行って防衛都市の治癒を発動する準備をしていなさい。途中殲滅でき津敵がいたら殲滅すること」

 「暴れるぞーい!」「うっす」

 サイカちゃんとトダユイが出ていった。

 犬型と狼型はまだ50体近くが残っている状況だ。

 討ち漏らしは私一人で捌ききらなければならない。

 私はロケランを手に取ると北側を除く、東側、西側、南側の道路に跨る民家に向けて発射した。

 ヒュー……ボゴオオオオン!

 瓦礫が道を防いだのを確認するとすぐに全員に向けてメッセージを送った。


 北側以外には瓦礫で即席のバリケードを作ったから民家に戻る際は北側から戻るように。


 私は北側から侵入してこようとする狼型を殲滅すると残弾を確認する。

 ロケランは残り10発。回収の手間も考えると残り5発ほどになったら防衛都市の治癒発動の指示を出そう。


PM 7:30

[ケンタサイド]

 ダダダダダダダダ

 「クソ、きりがねえな」

 犬型と狼型の殲滅が続いている。残り30体は切っているとは思うけれど外周にはもう犬型と狼型はいなかったからケンタと同じ内側の外周で敵を殲滅していた。

 狩人型、熊型、忍型も出てきたからそちらも見かけたら殲滅していた。


ビービー

「WAVE4 1丁目北にレベル7騎士型ヒューマロイドが4体、レベル8女王型ヒューマロイドが2体出現。直ちに防衛に向かってください」


「女王型2体かきついな」

「とにかく僕たちは目の前の敵を殲滅しよう」


PM 7:35

[カザキリサイド]

 敵の数は犬型と狼型がおよそ20体ほど、狩人型が10体熊型7体忍型は殲滅済みだった。騎士型と女王型は厳しいけれどサイカちゃんにお願いした。

 ダダダダダダダダ

 北側の狩人型が最も接近してきており、熊型もバリケードに近接している。

 そろそろ防衛都市の治癒を発動させるべきかもしれない。私は戸田唯に指示を送った。


PM 7:37

[サイカちゃんサイド]

 斬!

「【Lv3凶】どうした脆いな【Lv3凶】」

 3体目の騎士型を倒した。こやつはもはや通常攻撃級。全く脅威ではない。

 雨攻撃対策の着ぐるみを用意してから雨攻撃は一切使用してこなくなった。

 斬!

 4体目の騎士型も首を斬り飛ばした。

 女王型その1の10指レーザーと女王型その2の全方位攻撃が来た

 シュン(前方)、シュン(前方)、シュン(前方)

「【Lv3凶】ヌシらもそれがうざいだけの存在になってしまったのう【Lv3凶】」

 斬!斬!

 女王型2体の首を跳ね飛ばす。


PM 7:40

[トダユイサイド]

 「防衛都市の治癒が発動されました」

 図書館の装置前で舞ちんの指示に従い装置のレバーを倒した。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 轟音が鳴り響いた。

「これより10分間敵の進行が停止します。また各装備が元の場所より復活します」

 あーしは図書館前の装備シャッタを確認しに行くと空だったシャッター内に所狭しと銃機器が並んでいた。

 これならもう楽勝なんじゃね?


PM 8:00

[カザキリサイド]

 1できる限り装備を回収するよう全員には指示を出した。

 時計台のある家にも大量の銃器を詰め込む。

 敵の数は残りあと合計で20体ほど。そのため一旦全員には武器の回収と並行して時計台のある家に戻るよう指示も出していた。

 あとはWAVE5の敵が来るのを待つだけね。

 そう思った矢先だった。


 ビービー

「WAVE5 1丁目北にレベル10王型ヒューマロイドが1体出現。直ちに防衛に向かってください」

 1体だけ?

 ゴゴゴゴゴゴゴ

 地響きのような音が聞こえた

 家のベランダから見ると防衛都市北に体長25メートルはあろうかという巨大なヒューマロイドが現れていた。ヒューマロイドは王冠にマントを装着しまさに『王型』と呼びにふさわしい恰好をしていた。

「おい!カザキリ見たかよ」

 新井健が玄関に駆け込んで来た

「ええ、見たわ、あいつ一体だけなのかしら」


「WAVE1サイゲン」


王型が街中に響き渡る音量で言った

途端にモニタ上、街の外周に位置する箇所におびただしい量の丸印が表示される

「嘘だろ。あいつまさかWAVE1と同じ敵を再出させたのか!?」

「どうやら……そのようね」


「WAVE2サイゲン」


 街の外周に位置する箇所に更におびただしい量の丸印が追加される。

 まずい!

 これでは敵が無限に湧いてくる。一刻も早く王型を倒さなければならない

「風切さん!」

 薄井健太やサイカちゃん達も玄関にやって来ていた。

「サイカちゃんは王型のそのほかはこの家の周囲で時計台を死守。急ぎ準備して!」

「はい!」「【Lv3凶】強敵!強敵!【Lv3凶】」

 あと3時間もこれに耐えきれるとは思えない。一刻も早く倒さないと


PM 8:05

[ケンタサイド]

 ダダダダダダダダ

 時計台に近寄ろうとする犬型狼型がを殲滅する。

 カザキリは拡声器で『モードオフ』を唱え人型を制止させていた。

 キリがなかった。

 この最後のWAVEを聞いて思った。やはりこれが正攻法ではないのではないかと。

 だが活路が見出せない以上はもう戦うしかなかった。


PM 8:10

[サイカちゃんサイド]

「【Lv3凶】ヒャッハー【Lv3凶】」

 斬!

 王型とやらの足に切り込むも傷1つ付けられなかった。

「【Lv3凶】もうそろそろ100撃か?ではやるかのう【Lv3凶】」

 鎌に力を込める。

「【Lv3凶】サイカちゃん流奥義 その1

  さい しゅう

    らい

【Lv3凶】」

 ジグザグに王型を斬りつける。わずかに申し分程度の傷が付いた。

「【Lv4凶】この災禍レベルをもってしてもこの程度とはサイカちゃんの沽券に関わるのう【Lv4凶】」


PM 8:10

[ケンタサイド]


「WAVE2サイゲン」

 

 ダダダダダダダダ

 また犬型と狼型が増やされたようだった。

 もうどうしようもないが考えることを諦めたら負けだと思った。

 考えろ。これまでの家の攻略を。

 『田舎の十字路に建つ家』は洗濯機による汚れの浄化でクリア

 『海の上に建つ家』は呼び鈴を押して魚を採った

 『殺人鬼の住む家』はカザキリの妨害はあったけれど思考して犯人を当てることでクリアした。

 すべて腕力ではなく閃きと発想によってクリア条件を満たしてきた。受付のお姉さんも誰にでもクリアできると言っていた以上腕力ゴリ押しが正攻法にはなりえないんじゃないか?

 それに、『防衛都市』の家だ。シールドと装備があるだけで核シェルターのようなものもないし、『防衛都市』とは今のところ名ばかりじゃないか。つまりどこかにあるんだ防衛都市になる装置が。そういえば最後の装置は時計台広場にあると言っていた、しかし時計台は今この家のリビングにある、だとするなら……。

 ダダダダダダダダ

 時計台のある家のベランダを見上げるとカザキリと目が合った。

「あなたも気づいたようね薄井健太。私を手伝いなさい」

 そう言うとカザキリはベランダから跳躍し地面に降り立った。

「うええええ風切さん大丈夫ですか」

「大丈夫よ。さあ、それですべてがはっきりするはずよ。新井健!、佐藤智樹!、戸田唯!私たちは時計台を運ぶからこれを死守しなさい!」

 カザキリと時計台を広場に運んだ。

 時計台を広場に置いた瞬間時計台の裏が青白く光った。

「これが答えね」

 光っている個所をカザキリが押すと中から小さい防衛都市変換装置が現れた。次のような文言が書かれている。


 防衛都市の神髄

  勇敢なる防衛者諸君よくこの装置までたどり着いた。

  このボタンを押すことで防衛都市はその神髄を発揮する。


 カザキリがボタンを押した。

「防衛都市の完全防衛機構発動が発動しました」

 その音声と共に時計台広場がシェルターのようなもので覆われた。

 シェルターの中はマジックミラーのようになっており時計台広場の外側も見渡せる。街の各箇所に隔壁のようなものが出現していた。

「これよりヒューマロイドの完全殲滅を行います」

 アナウンスがそう言うと超音波のような音が鳴り響いた。

「なんだ?」

 時計台広場の周りにいた犬型と狼型が行動を停止した。


PM 8:15

[サイカちゃんサイド]

「【Lv4凶】テエィィ!!【Lv4凶】」

 ようやっと王型の右足の親指を斬り飛ばした。

 しかしなんという硬さじゃ。女王型など比にならん。

「【Lv4凶】これは最強にして最凶の必殺技を出すしかないか【Lv4凶】」

 鎌にありったけの災禍の力を込める。

 「【Lv4凶】サイカちゃん流奥義その10 夢幻…」


「防衛都市の完全防衛機構発動が発動しました」


 何やら大音声が聞こえた。

「【Lv4凶】なんじゃあ!?【Lv4凶】」

 街の各箇所に隔壁のようなものが出現する。

「これよりヒューマロイドの完全殲滅を行います」

 超音波のような音が鳴り響いた。

「【Lv4凶】っっ…!超音波か【Lv4凶】」

 耳をふさいでおると

 目の前の王型に動きがないことに気づいた。

 顔を上げ王型の顔を見上げると目に光が宿っておらんかった。

「【Lv4凶】オヌシ、壊れてしんでおるな【Lv4凶】」

 ワシが認めた最強の敵はつまらん方法により息絶えておった。


PM 11:00

[ケンタサイド]

 ピンポンパンポーン

「本日の敵勢力の進行が停止しました。完全防衛完了でございます。長い間お疲れさまでした」


「よっしゃーーーーー!!」

「やったっすーーーーー!」

 アライとトダユイが歓声を上げる。

「防衛都市の完全防衛機構により8:30あたり以降から侵攻はなかった。

「ふー…みんな本当によく頑張ったわね」

「ああ、ずいぶん長く感じたな」

 カザキリとトモキが言った。

「舞ちーーーん!!お疲れ様」

 トダユイがカザキリにくっついてきた。

 みんなの喜んでいる顔を見ていると。

「薄井健太。私と同じ思考に辿り着くとはまた腕を上げたわね」

「いえいえ、たまたまですよ。それにしてもこの防衛都市の家は」

「ええ、防衛都市変換装置を探すことでクリアするようになっていたのね。あの超音波のような音はヒューマロイド出現のたびに鳴っていたのでしょうきっと、他の防衛都市変換装置を発動させてからじゃないと最後の装置は現れないようになっていたのね」

「……なるほど」

僕の考えていたことを全部言われた上に僕が考え切れていないことも言われたので黙っておくことにした。

「【Lv4凶】アヤツあっけなく死におって【Lv4凶】」

 サイカちゃんは皆の輪から離れた場所で腕を組みながら忌々しそうに何か言っていた。



僕たちは全員でエレベータに乗り込んだ。

「防衛都市の家、ご滞在いただきありがとうございます。当物件は、内閣府および株式会社セキュリティーアソシエーション様提供の物件となっており。本物件の特徴としては核戦争および災害ヒューマロイド侵攻を想定とした際に命を守るための防衛都市となっておりました。なおこの物件は都市機構の開発規模の大きさおよび試験的な導入であったため実用を見送られた形となります」

 カザキリが感心したような顔でアナウンスを聞いていた。

「それにしても、このメンツでよかったっすね」

「ああ、だれ1人かけていてもクリアはできなかったな」

「俺たちこの先もずっと仲間でいたいもんだな」

「け、結局私はお役に立てたのでしょうか?」

 ムジョウだけよくわからないうちにクリアということになってしまった。

「そうね。殺人鬼サイカちゃんが滞在者たちの中にいたのは驚きだったけれど、それでも彼女の力は本当に素晴らしいものだったわ。佐藤智樹の言う通りここにいる誰が欠けてもクリアは不可能だったでしょう」

「思い出すと色々あったっすね。まいちんが仕切って、インスタの撮影して、サイカちゃん登場であーしの女優モード覚醒して、アライっちのバイクでブイブイ言わせて、まいちんが大けがして、復帰してサイカちゃんが激闘してトモキっちはメンヘラかましてたっすね、あとウスイは舞ちんと最終装置発動させた」

 本当に色々あった。とても10日間とは思えなかったくらいに。

「本当にそうね全員この滞在で一皮むけたのは間違いないでしょう改めてお疲れ様」

 チン

 エレベータが住民票受付に着いたようだ。

 全員の顔を見渡す。

 トモキはふっきれたような顔をしていて、トダユイは笑顔、カザキリは相変わらずガングロメイクの無表情でアライは照れたような顔で鼻の下を指でこすっている。ムジョウはおろおろしたような顔で何もわかっていないような顔をしていたが、一瞬だけ禍々しい笑みを浮かべていたような気がした。


 何にしてもこれで長い滞在は終わった。次の物件に対して僕は期待に胸を膨らませた。


第一章 始まり編 完

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