第22話 小高い丘の上の赤い屋根の家 1日目その1
「深緑の装いが続き地面には僅かばかりの陽光が差している。風が吹く度に聞こえる葉の重なる音と小鳥のさえずりだけが森を訪れる者の鼓膜を震わせる。そしてそんな森を抜けた先には小高い丘があった、高さのほどは25メートル程であろうか。表まばらな草と申し分程度の小さな木がその表面を覆っていた。そしてその丘の上にはこの一帯では唯一と言っていい人の住む家として、赤い屋根の家がポツンと建っていた。この家はとある1人の少女の家であった。家に住む少女は歳の頃は10代の半ば、豊かな長い髪は三つ編みにし、顔には若干のそばかすがあり、うら若い少女を思わせる容姿をしていた。彼女は日々森に住む生き物を狩り、果物や野菜を採取し、川の水を汲んで生活していた」
「チェックポイント」
「ある日の朝、彼女は野菜の蓄えが無くなったので森に採取に出かけた。丘を中心に森は四方に広がっているが、彼女は東側の森の一部で畑を作り作物を育てていた。まずは丘に最も近いトマトを採取し次にレタスを採取するために東に向かって歩いていると、正面に人影を見つけた」
「まあ!あなたはどこから来たの?」
「彼女からの問いかけに正面に立つ人物は答えた」
「え、ええと南の方から来ました」
ブー
ハズレ音のようなものが鳴り響いた。
「シナリオ齟齬が発生しました。登場人物および物資を所定の位置に戻します。5分後にシナリオを再開します」
「えー何がダメだったんだ……」
「お言葉ですが薄井健太様。彼女は東を正面とし『北西方面』から歩いて来ました。南は川になっている以上、やって来たのは東からでなければ辻褄が合わないかと思われます」
テンジョウが言った。
僕たちは次の滞在物件として『丘の上の赤い屋根の家』に来ていた。滞在者は僕と昨日会った天上しずくの2名のみ。滞在日数と転居条件は、空に次のように書かれていた。
滞在可能日数:5日
転居条件:5日間すべてのシナリオをクリアすること
退去条件:いずれかの日程のシナリオの失敗
ここで言うシナリオとはナレーションのような先ほどの音声のことだろう。そしてここに来た当初次のような説明を受けていた。
「滞在者の皆様に滞在のルールを説明します。この『丘の上の赤い屋根の家』ではナレーションによるシナリオが進行し、ナレーションの途中で『介入ポイント』と呼ばれる滞在者様が何らかの発言または行動を起こす必要がある部分が存在します。介入ポイント発生時はナレーションが一時的に進行を停止します。介入ポイントで滞在者様が正しい発言または行動を起こすことでシナリオが進行します。その際、間違った発言または行動であった場合、ブザーが鳴り、シナリオが特定の位置からやり直しとなります。このシナリオを5日間進行させることで転居が可能となります。またシナリオの再開が不可能な状況ーー例えば昼の描写が存在するのに夜になってしまった場合などはシナリオ失敗とし、退去となってしまいますのでご注意ください」
とまあそんなわけで先ほどまでナレーションが進んでいたけれど、僕は早々に最初の『介入ポイント』で失敗してしまったのだった。
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