第3話 最初の詩

赤い服の女は最初は無口上筆記と踊るだけだったが、最近は左手に紙を持ち、右手に鉛筆を、しばらく踊りながら無口上筆記をした後、その場にしゃがみこんだり、電信柱に紙をひっつけてしゃにむに文章化したりしている。

無口上筆記とは何か。

口述筆記と似ているがそうではなく、私の造語で、心の中で話していることを口に出さず、時折漢字が合っているか空気中に書くような動作をし、それを文章化することである。

踊りだけだったけど、そのうち紙に書くようになっていったのを赤い服の女の親から聞いたその人は母伝いに紙と鉛筆を用意させた。

その紙は小学校の夏休みに親が勉強用に用意してくれたB5判の紙で、少し茶けているが紙はいっぱい残っている。

赤い服の女が最初に書いた詩は次のようなものだった。

「朱色の体の中をぐるぐるまわるものはなんですか?

 白い冷たいものはなんですか?

 白い冷たいものは雪と思うでしょう。

 けれども朱色のものと一緒に考えると、血と骨です。

 朱色の体の中をぐるぐるまわるもの、つまり情熱をたぎらせる生。

 そして白く冷たい骨は死を意味しています。

 また、赤と白は日本の国旗の色です。

 日本という国のこの時代の日本人女性のある一人の生き方を表してもいます。」

赤い服の女がこの詩を書いた時は、体調のすぐれない冬の季節だった。

三十三歳の厄年でその年に自分は死ぬのではないかと思っていた。

その恐怖に打ち勝とうと自分に向けた決意表明のようなものだった。

鏡に映った自分の顔は最初は青白かったがだんだんとどす黒くなっていき何かにとりつかれたようだった。

そして朝ご飯を食べようと茶碗に盛られたご飯は数十秒で冷たくなってしまうのは冬のせいか、はたまた自分にかけられた死へのカウントダウンか。

幾日も死の影がふりそそってくる中、この詩の中に生への情熱が燃え始め死にたくない、生きたいと心の底から思うのであった。

詩の中に自分自身の個人的な生きたいという思いと、現代というこの時代の女性の生き方を表したい社会的な思いが表せたらと思っている。

耳の後ろにニキビ跡があってそれを指の爪で傷つけ自分に罪として残しておくのが三十三歳の私であった。

その後、二回くらいニキビ跡がじくじく痛む。

自分にもこういう時代があったということの証拠だった。

そのニキビ跡を髪の毛で見えなくし、なにか希望のようなものを考えてみたいと切に思うのだった。

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